現代のビジネスシーンでは、さまざまな変化に柔軟に対応できる組織づくりが求められています。従来の業務プロセスをそのまま続けていては多くの無駄が発生し、効率化を妨げる大きな課題になるケースも少なくありません。
ビジネス全体を再構築する手法として注目されているのが「BPR(Business Process Re-engineering)」です。本記事では、BPRをわかりやすく解説するとともに、業務改善やDXとの違い、具体的なメリットやBPRの進め方についてご紹介します。読み終わる頃には、あなたの組織でBPRを始めるための具体的な道筋が見えてくるはずです。
【わかりやすく解説】BPRとは?
BPRとは「Business Process Re-engineering(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)」の頭文字をとったもので、企業のビジネスプロセスを抜本的に再設計し、組織全体を最適化へ導く手法のことです。従来の流れや常識にとらわれず、目的達成のためにゼロから業務プロセスを組み直し、生産性や付加価値の向上を狙います。従来の業務改善よりも規模が大きく、組織全体での最適化を目指すところに特徴があります。
変化の激しい現代ビジネスで生き残るためには、業務の効率化だけでなく、中長期的な視点に立った仕組みづくりが必要です。その一環としてBPRが活用されるケースがとても増えています。
BPRの基本
BPRの基本は、その名の通り「プロセス」を大胆に変更することです。一般的な業務改善では、現状のフロー自体は維持しつつ無駄な作業を削減するなど比較的小規模な効率化を行う場合が多いですが、BPRは根本となるプロセス全体にメスを入れます。具体的には、担当部署や組織の在り方を再編したり、IT技術やDX(デジタルトランスフォーメーション)の活用方針を一から考えたりするなど、大規模な改革につながります。企業全体の仕組みを見直す必要があるため、一定のリソースは必要ですが、得られる効果は大きいと言えるでしょう。
なぜBPRが注目されているのか?
現代は市場が目まぐるしく変化し、消費者ニーズも多様化しています。また、ITによる新技術の登場やDX推進により、従来の業務プロセスがすぐに時代遅れになる場合もあります。近年人手不足が深刻化しており、限られた人員で最大の成果を出さなければならない企業も少なくありません。こうした状況で成果を上げるには、既存ルールにしばられるのではなく、大胆に仕組みを作り直すBPRが適しているのです。
業務改善との違い
BPRと業務改善の大きな違いは、その「改革の幅」です。業務改善は現行プロセスを前提に「どうすれば生産性が高まるか」を追求し、IT・人事・マニュアル整備などを行うことが中心です。対してBPRは、業務プロセスそのものを別の形に変えてしまうほど広範囲の見直しを行います。結果として、従来のシステムや組織構造を全面的に切り替えることもあるため、企業全体に大きな変化をもたらす点が特徴となっています。
DXとの違い
DXは、ITとデジタル技術を活用してビジネスモデルや組織文化を変革する取り組みです。システム導入を通じて業務を効率化し、データ分析などから新しい価値を生み出すことを重視します。一方、BPRは、会社全体のプロセスを再構築するという点で、より広い概念です。DX自体も強力な改革ツールですが、「業務プロセスをどう組み直すか」という枠組みまで検討を及ぼすのがBPRです。
BPRに取り組むメリット
業務プロセスを抜本的に変えるBPRには、さまざまなメリットがあります。特に、今までの課題を一気に解消し、組織の強みを最大限に引き出す効果が期待できます。
業務を可視化できる
BPRでは業務の全体像を一度整理するため、誰がどんな作業を担当し、どの工程でボトルネックが発生しているのかが明確になります。これにより、プロセスの無駄がどこにあるのか把握しやすくなり、新たな仕組みづくりの指針を得やすいです。業務の見える化が進むことで部門間の連携もスムーズになり、組織内のコミュニケーションを促進する効果も期待できます。
生産性が向上する
従来のプロセスに潜んでいた無駄を排除し、効率化を重視した設計を行うため、生産性を大幅に引き上げることができます。今まで属人的だった作業を標準化し、チーム間で協力しやすい体制になることで、全体のパフォーマンスも向上します。
コストの削減が期待できる
BPRは業務の無駄をそぎ落とすだけでなく、必要に応じてアウトソーシングやシステム統合といった選択肢も取り入れるため、長期的に見てもコスト削減効果が見込めます。不要な作業を削ることで直接的な人件費や運用経費の削減につながるほか、複雑だった社内プロセスをシンプルにすることで管理コストも下げられます。
従業員の業務意識改善につながる
BPRの実施過程では、自分の担当業務が全体の成果にどう貢献しているかを従業員一人ひとりが再認識できます。プロセスの一端を担っていることが明確になると、自身の責任感や仕事へのモチベーションが高まり、課題への取り組み姿勢も向上する傾向があります。手順やルールが明文化されることでトラブル時の対処もしやすくなり、チーム全体の連携も強化されるでしょう。
BPRの進め方【5ステップ】
BPRを成功させるには、目的や範囲を曖昧にしないことが大切です。ここでは、取り組みの大まかな流れを5つのステップに分けて紹介します。
①目的・業務範囲の設定
まずは「何のためにBPRを行うのか」を明確にします。
売上増やコスト削減、人員不足対策など、さまざまな目的が考えられますが、経営陣や現場が共通のゴールを認識していないと改革が進みにくくなります。
次に、改革の対象となる業務範囲を設定しましょう。企業全体を見直すのか、ある特定部署に限定するのかを明確に決めることで、無理のない計画立案が可能になります。
②課題の分析
次に、現状の課題となっているプロセスを洗い出します。業務手順やフローを詳細に調べ、どこが非効率的か、どの工程でミスが多いかなどの課題を把握します。システムが古くなっていないか、既存のDX施策が不十分ではないか、組織内コミュニケーションが滞っていないかなど、多角的な視点から複数の課題を洗い出すことが重要です。
③戦略・方針・プロセスの設計
把握した課題を解決し、かつ将来的な需要にも柔軟に対応できるプロセスを設計します。たとえば、新しいITシステムの導入や、複数部署の連携を促すための組織再編、外部との協業など、多面的に検討するとよいでしょう。
部分的な改善にとどまらず、経営戦略や中長期的なビジョンと結びつけて方針を固めることで、BPRが組織全体にしっかり根付きます。
④実施
設計した新しいプロセスやシステム、組織改革プランを実際の業務に落とし込みます。その際は現場への周知とトレーニングが必須です。急激に変化を与えると混乱が起こる可能性があるため、スムーズな移行スケジュールやサポート体制を整え、従業員の抵抗感を和らげます。テスト運用を経て問題点を修正し、本格導入へ向けて徐々に移行していくとトラブルを抑えやすいです。
⑤モニタリング・評価
導入した新プロセスが想定通りの成果を上げているか、定量・定性の両面から評価します。数字で計測しやすいコスト削減や生産性の向上に目が行きがちですが、従業員のモチベーションや作業負荷の変化、チームワークの向上など定性的な面にも目を向ける必要があります。定期的にモニタリングを行い、改善の余地があれば新たな施策を打ち出していくことで、継続的な最適化を実現できるでしょう。
BPRと相性の良い3つのツール・手法
BPRをより効果的に進めていくには、組織的な工夫やIT技術の活用も大きなポイントになります。ここではとくに活用されることが多い代表的な方法を紹介します。
ERP
ERP(Enterprise Resource Planning)は、企業のヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を一元管理し、連携を高めるためのシステムや概念です。現在では「統合基幹情報システム」として、企業の情報戦略において中心的な役割を果たすシステムを意味することが多いです。
ただ、単にERPを導入するだけでは業務の効率化には限界があります。ERPとBPRは相互に補完し合う関係にあるため、業務プロセスの抜本的な見直し(BPR)と情報システムの統合(ERP)を同時に進めることで、BPRの最大の効果を生み出すことが可能になります。
BPO
BPO(Business Process Outsourcing)は、アウトソーシングの考え方を広範囲に適用し、自社の限られたリソースをコア業務に集中させる手段です。主にバックオフィスやヘルプデスクなど、繰り返しの多い作業を標準化しやすい領域として外部委託することで、コスト削減や大幅な効率化が図れます。自社の得意分野に注力して付加価値を高めたいときには、BPO導入が有効です。
シェアードサービス
シェアードサービスは、グループ企業や複数の組織に共通する人事・経理・情報システムなどの機能を集約し、共同で運営する仕組みです。同じグループ内でも部署ごとに業務フローが異なると、管理コストやコミュニケーションロスが発生しがちです。シェアードサービスによってそれらを集約すれば、経営資源を有効活用できるだけでなく、プロセスの標準化や質の向上にもつながります。これにより、組織全体で連携が取りやすくなり、より戦略的な業務改善が実施しやすくなります。
BPRを進める際の注意点
BPRは成功すれば高い成果を生み出しますが、大がかりな取り組みであるがゆえに押さえておくべき課題もあります。以下のポイントを考慮し、計画的に対策を進めましょう。
初期コストがかかる
抜本的な業務改革を行うには、準備段階の調査や分析、システム導入費、組織再編のための予算が必要になります。大きな変革ほど投入コストは高くなるため、資金計画をしっかり立てておくことが重要です。短期的には費用が増えるものの、長期的にはコストダウンや生産性アップを実現することを視野に入れて判断しましょう。
工数がかかる
BPRでは業務フローの洗い出しから新体制への移行まで、多くの作業が発生します。企業の規模・業種によっては何年もかかることもあるため、途中でモチベーションが下がらないようにする仕組みづくりが必要です。プロジェクト管理ツールの活用や、マイルストーンを設定したフェーズ管理などを行い、段階ごとに達成状況を確認していくことが欠かせません。
従業員の賛同と協力が欠かせない
BPRが成功するかどうかは、従業員の理解と協力にかかっています。業務プロセスの大幅な変更は、現場のメンバーに負担をかける可能性があり、意欲を損なわせてしまうかもしれません。そのため、プロセス変更が「自分たちの働き方をより良くするために必要な改革」であることを丁寧に説明し、各部署から代表者を参加させるなどして主体的に取り組んでもらう工夫が重要です。
FAQ
Q1: BPRと業務改善の違いは何ですか?
A: 業務改善は現行プロセスを維持しながら部分的な効率化を図るのに対し、BPRは業務プロセス自体を根本から作り直します。業務改善が「改良」なら、BPRは「抜本的改革」といえるでしょう。組織構造やシステムを全面的に見直すため、より大きな成果が期待できます。
Q2: BPRの実施にはどれくらいの期間とコストがかかりますか?
A: 期間は企業規模により異なり、小規模で3〜6ヶ月、中規模で6ヶ月〜1年、大規模では1〜3年程度が一般的です。初期投資は数百万円から数億円まで幅がありますが、多くの企業では1〜2年で投資回収を実現しています。長期的には大幅なコスト削減効果が期待できます。
Q3: 中小企業でもBPRは実施できますか?
A: はい、むしろ中小企業の方が意思決定が速く、変革を実行しやすいメリットがあります。全社一斉ではなく特定部署から始める、外部コンサルタントを活用する、クラウドサービスを利用してコストを抑えるなど、規模に応じた進め方を選択することで、効果的なBPRが実現できます。
まとめ
BPRは、業務の進め方を根本から見直して効率を高める手法です。従来の改善活動とは異なり、仕組み全体を作り変えることで、組織の力を最大限に発揮できるようになります。
市場の変化に素早く対応し、持続的に成長できる企業・組織づくりのために、BPRの実行は大きな意義を持ちます。効率化だけでなく、将来を見据えた経営戦略の一環として取り組むことが大切です。最初は大きな労力がかかるかもしれませんが、改善を積み重ねることで、企業全体の競争力向上につながります。