企業内でSaaSや業務システムが増えても、業務効率化が進むとは限りません。本記事では、データの統合や業務プロセスの横断的管理を可能にするETLツールの基本と活用法を解説します。データ利活用や工数削減、属人化防止等、業務改善に直結するメリットを解説します。
ETLツールとは?

ETLツールとは、企業のシステム内に散在する膨大なデータを統合し、分析や活用が可能な状態へと整理するためのソフトウェアです。「ETL」という名称は、一連の処理プロセスである「Extract(抽出)」「Transform(変換・加工)」「Load(書き出し)」の頭文字に由来しています。
企業内には基幹システム(ERP)や顧客管理システム(CRM)、営業支援システム(SFA)、さらにはWebサイトのログデータや各種SaaS等、多種多様なシステムが存在しています。しかし、これらのシステムに蓄積されたデータは、それぞれ異なる形式やルールで管理されていることが一般的です。そのため、個々のデータを単体で参照するだけでは、組織横断的な分析や高度な経営判断に役立てることは困難です。
ここで重要な役割を果たすのがETLツールです。ETLツールは、これら複数のデータソースから必要なデータを「抽出」し、分析目的に合わせてデータ形式を統一したり、不要なデータを除去したりする「変換・加工」を行います。そして最終的に、データウェアハウス(DWH)等の統合データベースへ「書き出し」を行います。
ETLツールは、データの統合基盤として重要な役割を担います。正確かつ整理されたデータ基盤があって初めて、BI(ビジネスインテリジェンス)ツール等を用いた精度の高い分析が可能となります。
ETLツールの必要性
ETLツールの導入が多くの企業で急務とされている大きな理由は、企業活動で生成されるデータの種類や形式が複雑化し、従来の「手作業によるデータ統合」が限界を迎えている点にあります。
多くの企業では、部門ごとに異なるツールやSaaSが導入されており、データが各所に孤立して保管される「データのサイロ化」が起きています。例えば、Aシステムでは「2023/10/01」、Bシステムでは「2023年10月1日」といったように、同じ日付データでも形式が異なるケースは珍しくありません。これらを統合的に分析するためには、形式を統一し、データの整合性を取る作業が不可欠です。
しかし、Excel等を用いて手作業でこの統合プロセスを行うことは、膨大な時間と労力を要します。データ量が増えれば増えるほど処理時間は長くなり、転記ミスや計算ミスといったヒューマンエラーのリスクも高まります。また、担当者のスキルに依存した属人的なデータ管理は、業務のブラックボックス化を招き、組織全体の生産性を低下させる要因にもなりかねません。
ETLツールを導入することで、これらの課題を根本から解決できます。異なるシステム間のデータ形式の差異を自動的に吸収・変換し、常にクリーンな状態でDWHへデータを供給することが可能になります。その結果、データ準備にかかる工数が大幅に削減され、情報システム部門やデータ分析担当者は、データの整備ではなく、「データの活用」や「分析に基づいた正確な数値予測」といった、より付加価値の高い業務に注力できるようになります。
ETLツールができること
ETLツールは、企業内に散在するデータを統合し、分析可能な状態にする役割を担います。ここでは、名称の由来である「抽出」「変換・加工」「書き出し」という3つの主要プロセスそれぞれの機能について解説します。
データの抽出(Extract)
データの抽出とは、複数の異なるデータベースやファイル、アプリケーション等から必要なデータを収集し、取り込むプロセスです。SFAやCRM、Webサイトのアクセスログ、基幹システム、ERP等、あらゆるデータソースが対象です。
抽出の際には、全データを取り込むのではなく、必要なデータのみを絞り込むフィルタリングや、一定期間のデータのみを取り出す期間指定が行われ、後続の処理負荷を軽減して、効率的なデータ統合を実現します。
また、データソースの種類に応じて適切な接続方法を選択し、データベースへの直接接続、APIを介した取得、CSVファイルの読み込み等、柔軟な抽出が可能です。
データの変換・加工(Transform)

データの変換・加工(Transform)は、抽出したデータを格納先であるDWHの形式やルールに合わせるために加工・処理するプロセスです。
具体的には、データ形式の統一や文字コードの変換、重複データの削除、不足データの補完、集計・計算処理等が行われます。また、データの品質を向上させ、分析精度を高めるクリーニングや正規化といった作業もこの段階で実施されます。異なるシステムから収集された表記ゆれや不整合を解消することで、信頼性の高いデータ基盤を構築できます。さらに、複数のデータソースを結合したり、ビジネスルールに基づいた新たな項目を算出したりすることで、分析に適したデータ構造へと変換します。
データの書き出し(Load)
データの書き出しとは、変換・加工を終えたデータを最終的な格納先であるDWHやデータマートに書き込むプロセスです。データの書き込み方式には、全てを一度に書き換えるフルロードと、差分のみを追加・更新する増分ロードがあります。業務要件やデータ量に応じて適切な方式を選択することで、システムへの負荷を最小限に抑えられます。
データ格納後は、BIツール等を利用して分析や可視化を行い、ビジネス上の意思決定に活用されます。また、書き出しの際にはデータの整合性チェックやエラーハンドリングが行われ、確実にデータが格納されたことを確認する仕組みも備わっています。
ETLツールの活用例
ETLツールは、単にデータを移動させるだけでなく、具体的な業務課題の解決や意思決定の高度化に直結します。ここでは「製品開発」「マーケティング」「ナレッジ共有」という3つの視点から、主な活用例を紹介します。
製品開発に活用する
製品開発の現場では、製品の使用ログやユーザーのフィードバック、市場調査データ、問い合わせ履歴等、多種多様な情報を統合して分析基盤に集約できます。統合されたデータを分析することで、製品の改善点や新たなニーズを迅速に発見し、開発サイクルの短縮につなげることが可能です。どの機能が頻繁に使われているか、どの画面で離脱が多いかといった客観的な事実に基づいた開発戦略の立案を実現します。
また、複数の製品やバージョンごとのデータを横断的に比較することが可能です。より効果的な製品改善の優先順位付けができるようになり、顧客満足度の向上と競争力強化を同時に達成できる開発体制を構築できます。
マーケティング分析に活用する
マーケティング領域では、Web広告データ、ECサイトの購入履歴、CRMの顧客情報、SNSの反応、メール配信結果等、バラバラに存在するデータを一元化して、総合的な分析を行えます。顧客の行動パターンや購買履歴に基づいたセグメント分析が可能となり、より精度の高いターゲティングを実現します。定期的なデータ更新によって、最新の情報で分析ができるため、キャンペーンの効果測定や見込み客へのアプローチをタイムリーに実行できるようになります。
さらに、顧客のライフサイクル全体を可視化することで、適切なタイミングでの施策展開が可能となり、マーケティングROIの最大化につながります。データに基づいた意思決定により、勘や経験に頼らない戦略的なマーケティング活動を推進できます。
ナレッジ共有に活用する
ナレッジ共有の場面では、営業日報、業務マニュアル、顧客対応記録、会議議事録等の非定型データをETLツールで整形し、全社的なナレッジベースへと統合できます。各部門が持つ「暗黙知」をデータとして抽出し、活用しやすい形式に変換することで、組織全体の知識レベルを向上させることが可能です。必要な情報に誰でも簡単にアクセスできる環境を整備することで、社員の生産性向上や業務品質の均一化を実現できます。また、ベテラン社員のノウハウを形式知化して蓄積することで、人材育成の効率化や属人化リスクの低減にもつながります。組織の知的資産を体系的に管理し、継続的な業務改善と競争力強化の基盤を構築できます。
ETLツールと他のツールとの違い

データ連携や業務自動化を実現するツールには、ETL以外にもEAI、RPA、iPaaS等があります。それぞれのツールが得意とする領域や処理方式の違いを正しく理解し、自社の課題や目的に最適な手段を選定することが求められます。
ETLツールとEAIの違い
EAI(Enterprise Application Integration)ツールは、主に異なるアプリケーション間でデータをリアルタイムに連携させることを目的としています。EAIはデータの集約よりも、業務プロセス連携やメッセージングに重点を置いており、データの変換・加工機能は限定的です。ETLがDWHへのデータ集約と複雑なデータ変換を得意とするのに対し、EAIは、異なる業務アプリケーション同士の連携やメッセージング、リアルタイムな業務プロセス統合を主な目的としています。データ変換・加工機能は限定的で、データをDWHに集約するような分析用途専用ではないという違いがあります。例えば、受注システムと在庫管理システムをリアルタイムで連携させる場合はEAIが適しており、過去の売上データを統合して分析する場合はETLが適しています。
ETLツールとRPAの違い
RPA(Robotic Process Automation)は、主に定型的なPC操作や繰り返し作業を自動化するソフトウェアロボットです。RPAはシステムのUI(画面)を操作することでデータを連携させますが、ETLはAPIやデータベースに直接接続してデータを扱います。
ETLが大量データの統合・加工を目的とするのに対し、RPAは主に個別業務の自動化による工数削減を目的としています。例えば、毎日同じ手順で複数のシステムにログインしてデータをコピー&ペーストする作業はRPAで自動化できますが、数百万件のデータを変換して分析基盤に格納する処理はETLが適しています。
また、RPAは画面レイアウトの変更に弱い一方、ETLはシステム構造の変更に強いという特性の違いもあります。
ETLツールとiPaaSの違い
iPaaS(Integration Platform as a Service)は、主に複数のクラウドサービス(SaaS)間の連携や業務自動化を行うクラウド型プラットフォームです。iPaaSはノーコード・ローコードでのリアルタイム連携を得意とするのに対し、ETLは複雑なデータ変換とデータウェアハウスへの一括格納を得意としています。
iPaaSは業務フロー全体を自動化する連携機能が充実しており、ETLは分析のためのデータ整備に特化しているという違いがあります。例えば、営業支援ツールで商談が成立したら自動的に請求書を発行するといった業務連携はiPaaSが適しており、各部門のデータを統合して経営分析レポートを作成する場合はETLが適しています。
こうしたETLとiPaaS双方の強みを活かした統合基盤の代表例のひとつが、IBMが提供する「webMethods」です。
webMethodsがどのような背景で求められているのか、導入メリットや活用事例については、以下の記事で詳しく紹介しています。
・webMethodsとは?求められる背景や導入メリット、事例を紹介
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ETLツールを導入するメリット
ETLツールは、単なるデータ整理にとどまらず、企業の意思決定プロセスや業務効率を根本から変革する力を持っています。ここでは、導入することによって得られる特に大きなメリット「データ利活用」「工数削減」「属人化解消」の3点について解説します。
データ利活用が進む
複数のシステムに散らばっていたデータが統一された形式でデータウェアハウスに集約され、一元的に管理・分析できる環境が整います。必要なデータがすぐに利用できる状態になるため、データに基づいた迅速な意思決定や新たなビジネス機会の創出につながります。データが孤立する「データのサイロ化」を防ぎ、全社的にデータの価値を最大限に引き出すことが可能になります。
さらに、部門を超えたデータ連携により、これまで見えなかった相関関係や傾向を発見できるようになり、より高度な分析や予測が実現します。経営層から現場まで、あらゆる階層で質の高いデータ活用が進み、組織全体のデータドリブン経営を推進する基盤となります。
データのサイロ化について詳しくは、以下の関連記事をご覧ください。
▼データのサイロ化とは?原因や起こりうる問題、解消方法について解説
(URL未定)
データ変換・加工時の工数削減やミスの削減につながる
手作業で行っていたデータ抽出、変換、ロードのプロセスを自動化することで、作業工数を大幅に削減できます。人手による複雑なデータ加工や集計が不要になるため、計算ミスや転記ミスといったヒューマンエラーの発生を防げます。常に正確で最新のデータをデータウェアハウスに提供できるため、分析結果の信頼性が向上します。特に月次や週次で繰り返し実行される定型的なデータ処理において、その効果は顕著です。
また、担当者は単純作業から解放され、より付加価値の高い業務、例えば顧客行動分析や製品戦略の立案といった、価値を生む業務に時間を割くことができるようになります。
データ管理の属人化を防げる
データ連携や加工の手順がツール内で統一・可視化されるため、特定の担当者に依存することなく運用できるようになります。フローの変更やメンテナンスが容易になり、担当者が変わってもスムーズに引き継ぎや継続的な運用が可能となります。誰でも同じ手順で正確にデータを取り扱うことができるようになるため、全社的なデータガバナンスの強化に貢献します。
データ管理が属人化すると、特定の担当者しか処理内容を把握できず、不正やミスの温床になるおそれがありますが、ETLツールの導入により透明性が確保されます。また、処理の履歴やログが自動的に記録されるため、監査対応やトラブルシューティングも容易になり、組織全体のリスク管理体制を強化できます。
ETLツールのデメリット
データ統合において強力なETLツールですが、導入や運用面でいくつかの課題も存在します。ここでは、自社の要件と照らし合わせ、適切な選択を行うために理解しておくべき3つのデメリットについて解説します。
初期構築に手間がかかる
ETLツールの導入では、連携対象のデータソースが多様であるほど設計や設定に時間と労力がかかります。特に複雑なデータ変換ルールを作成したり複数システムの特性を把握したりするには、専門知識が必要です。また既存の業務システムやデータ構造が複雑な場合は、カスタマイズや調整に多くの作業工数が発生することも珍らしくありません。そのため初期段階の計画とリソース確保が成功の鍵となります。
運用監視が必要となる
ETLプロセスが正常に動作しているか、エラーや遅延が発生していないかを常に監視する必要があります。データソースの仕様変更や大小さまざまな障害によって、ETLフローの修正や再構築が必要になることもあります。さらに安定稼働のためには定期的なメンテナンスや処理速度の最適化等の運用作業も発生し、運用コストが無視できません。こうした運用負荷を軽減する仕組みや人的対応体制の整備が求められます。
リアルタイム性がない
従来の典型的なETLツールはバッチ処理を前提とするため、数分から数時間単位での更新が一般的であり、即時性を求める業務には別途検討が必要です。ただし、近年はリアルタイム/ストリーミングに対応したETLツールも登場しているため、自社要件に応じてリアルタイム対応の可否を選定基準のひとつに加えることが求められます。
ETLツールの選び方
ETLツールを選定する際は、自社の要件に合った製品を見極めましょう。ここでは、選定時のポイントを4つご紹介します。
データ連携の豊富さ
現在利用中または導入予定のデータベースやSaaS、ファイル形式に幅広く対応するコネクタの有無を確認しましょう。オンプレミスやレガシーシステム等、特殊な環境との連携実績も重要な評価ポイントです。加えて、API連携やカスタムコネクタ作成等、将来のシステム拡張に柔軟に対応できるかどうかを評価します。
処理できるデータ量
扱う予定のデータ量や処理速度がツールの性能に合致しているか確認する必要があります。大量データの高速処理を支える並列処理や分散処理技術の有無、さらにデータ増加時に処理能力が低下しないスケーラビリティも評価基準です。
UI・操作性
データ抽出から変換・書き出しまでのフローをGUIで直感的に設計できるかを確認しましょう。プログラミング知識がなくてもドラッグ&ドロップ等で操作できるか、また日本語対応やマニュアル、サポート体制の充実度も欠かせません。導入後の運用負担の軽減に直結します。
価格
ライセンス費用や接続コネクタ数等、製品ごとに異なる料金体系を、自社の予算に合わせて総合的に比較、検討しましょう。初期費用だけでなく、導入後の保守費用や追加オプション費用など、継続的な運用や将来的な拡張を含めた総合的な試算が求められます。
まとめ
ETLツールは、企業内のさまざまなシステムに散在するデータを集約し、分析や意思決定に活用できる状態へ整理するための重要な基盤です。抽出・変換・書き出しというプロセスを自動化することで、データ準備にかかる工数やヒューマンエラーを大幅に削減し、データ利活用のスピードと精度を高められます。
一方で、初期構築の手間や運用監視の負荷、リアルタイム処理の制約など、ETLツールならではの課題も存在します。また、EAIやRPA、iPaaSなど周辺ツールとの役割分担も踏まえたうえで、「どの業務をどの手段で実現するか」を全体設計することが欠かせません。ツール単体ではなく、自社のシステム全体アーキテクチャの中で、ETLの位置づけを整理することが重要です。
さらに、企業内にSaaSや業務システムが増えていくほど、個別に連携やデータ加工を積み上げるだけでは、全体構造が複雑化しやすくなります。どこかのタイミングで、システム全体を俯瞰し、データ連携・業務プロセスの在り方を「部分最適」から「全体最適」へと見直す必要があります。
こうした背景を踏まえ、なぜSaaSを増やすほど業務は複雑化していくのか、その本質やシステム乱立のリスク、全体最適化に向けた考え方を整理した課題解決型ホワイトペーパーをご用意しています。ETLツールやiPaaSの選定、システム連携の方針検討の際にご活用いただける内容です。
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