ETLツールは、システム内に散在するさまざまな形式のデータを統合し、活用しやすくするためのツールです。データの戦略的な利活用が欠かせない現代のビジネスシーンで、ETLツールはデータ活用基盤の構築に欠かせない製品です。
そこで本記事では、ETLツールを選ぶ際に役立つ、類似ツールとの違い、種類や特徴、比較ポイント等を解説します。
ETLツールとは?

ETLツールは、企業内のデータを統合し、活用しやすいように処理するツールです。ETLとは「Extract Transform Load」の頭文字をとった略語で、複数の形式のデータを抽出(Extract)して変換(Transform)し、格納(Load)することでデータ分析の前処理を自動化でき、データ管理の工数削減や運用の効率化を行います。
ビジネスシーンでは、膨大な電子データを利用する機会が拡大する一方で、活用環境が整っていないと作業負荷が増し、業務の遅延や停滞を招くおそれがあります。そこで、ETLツールによりデータ活用に向けた処理を自動化・標準化することで、収集・加工に伴う手作業や待ち時間を削減し、管理、運用の最適化を図ることが求められています。
ETLツールについての詳細は、以下の関連記事を参照ください。
・ETLツールとは?必要性やできること、導入メリット、比較ポイントについて解説
ETLツールが必要になった背景
多様なデータを取り扱う組織では、ETLツールの活用が重要視されています。
では、具体的にどういった理由でETLツールが必要とされているのでしょうか。ここでは4つの主な背景に絞って解説します。
システムの多様化とデータ形式の不統一
企業が利用するシステムやプラットフォームの種類は、近年、ますます多様化しています。そのため、異なる形式や構造のデータが散在していることが多く、そのままではデータの利活用に膨大な時間と手間を要します。ETLツールで同じルールやデータ形式に変換して統合することで、データの効率的な利活用の土壌が作られ、より組織横断的な分析が可能になります。
データ量の増大
企業のデジタル化、Webサービスの拡大はもとより、スマートフォンやIoTデバイスの普及等、企業が抱えるデータ量は爆発的に増えています。そのため、従来の手作業では対応しきれなくなっているのが現状です。また、データの置き場所も、オンプレミスやクラウド、SaaS等に分散しています。そのため、データの利活用にはそれらのデータを連携、統合させる必要があります。ETLツールを活用することで膨大なデータ量を整理統合し、スピーディーなデータ分析を実現できます。
手作業によるデータ処理・統合の限界
データ統合の工程を手作業で行うと、データの誤削除や誤入力、重複等、ヒューマンエラーが発生しやすくなります。しかしETLツールでは自動でデータクレンジングを行い、データの不整合を防ぐため、手作業と比べてヒューマンエラーを減らせ、より整合性の高いデータ管理を実現できます。
また、作業のルール化が難しく、担当者によって作業工程が異なる場合は、業務の属人化も起こりやすくなり生産性の低下を招きます。
属人化の問題を解消するためにETLツールを使用すれば、業務の引き継ぎが困難な場合でも、データ連携の仕組みをGUIで確認可能なため、どこで抽出し、どのように変換し、どこに格納しているかといったフローを誰でも簡単に把握できます。
データガバナンスの必要性
データの利活用が進めば進むほど、データの質、安全性、プライバシー保護といったデータガバナンス(管理体制)がますます重要視されるようになってきています。形式を統一し整合性のあるデータにすることで品質が担保され、その後の正しい分析やそれに基づく意思決定が可能になります。また、機密データや顧客情報等を取り扱う場合は厳重なセキュリティ対策が求められます。
ETLツールは、データの抽出元から格納先までの処理プロセスを明確にし、アクセス制御やログ管理、管理権限の分離等を行ってセキュリティ統制を行います。また、データの信頼性には、どのようなデータをどのように処理したかを管理する仕組みが整っている必要があります。ETLツールでは、データの加工内容や加工履歴を追跡可能なため、データの透明性を維持しながら不正なデータやエラーの発生個所を迅速に特定できます。
このように、セキュリティの確保や加工履歴、処理フローの透明性を保てるため、データガバナンスに大きく貢献できます。
ETLツールと類似ツールとの違い
ETLツールには、EAIやiPaaS、BI等、類似ツールがいくつかあります。これらとETLツールとの違いを詳しく解説します。

EAIとの違い
EAIとは、主に企業にある異なるアプリケーションやシステム間でデータをリアルタイムに連携させ、業務プロセスを統合することを目的としている技術、仕組みのことです。「Enterprise Application Integration」の頭文字をとったもので、それぞれ「Enterprise(企業)」「Application(アプリケーション)」「Integration(統合)」を意味します。主に日常的な業務連携におけるデータのルーティング等に重点が置かれ、業務システムおよび基幹システムを連携させたり、複数のオンプレミス(自社保有システム)間でデータを連携させたりする際に活用されます。
ETLはシステム等からデータを抽出、変換してDWH(データウェアハウス)と呼ばれるデータベースに格納するのに対し、EAIはアプリケーションやシステムのデータを連携します。ETLは複数のデータを正確に分析、管理したい場合の基盤整備に、EAIはデータ連携の即時性が求められる業務に適しており、リアルタイム連携を必要とするシステム間連携に強みがあります。
iPaaSとの違い
ETLは分析のためのデータ統合が目的の技術で、iPaaSはマルチクラウド間でのデータ連携による業務フローの自動化を目的としています。iPaaSとは、主にクラウドサービスやオンプレミス(自社保有システム)間のデータ連携をノーコード/ローコードで実現し、業務プロセスの自動化を行うためのプラットフォームです。「Integration Platform as a Service」を略したもので、「Integration(統合)」「Platform(基盤)」「as a Service(サービス)」という意味があります。
iPaaSは、SaaSやクラウドサービス間の連携、業務フローの自動化に強みを持つ一方、ETLはオンプレミスのレガシーシステムや大量データのバッチ処理、複雑なデータ変換に強みを持ちます。例えばSaaSのアプリケーション同士で連携させたり、MAツールとCRM間でデータを同期させたりする場合に適しています。
近年ではiPaaSがETL機能を取り込み、定義の境界線が曖昧に捉えられるケースもありますが、データ分析基盤の構築においてはETLが依然として主流とされています。
BIとの違い
BIは、DWH等に格納されたデータを分析して明確化し、経営戦略や意思決定を支援することを目的としたツールです。「Business Intelligence」の頭文字をつなげたもので「Business(ビジネス)」「Intelligence(知見、分析力)」という意味があります。例えば、在庫管理データや売上管理レポート、マーケティング分析や経営判断を検証する場合等に活用します。
ETLは分析に使うデータを準備、整備する前処理のツールであるのに対し、BIは整備されたデータを活用するツールである点が大きな違いです。ETLがデータの裏側の処理を担い、BIがデータの可視化を担うという関係性であり、両者は多くの場合、セットで活用されます。
ETLツールのタイプ別でみる機能比較
ETLツールは、特徴に応じて主に以下の4つのタイプに分類できます。
- ETL専用タイプ
- DWH・BI搭載タイプ
- ETL搭載のEAIタイプ
- パブリッククラウドサービスのオプションタイプ
ETL専用タイプ
ETL専用タイプは、データを抽出してから変換し、格納するまでの一連のETL機能に特化しており、規模の大きいデータや複雑な変換が必要なデータ処理を得意としています。直感的な操作ができるため、高度なスキルがなくてもETL環境をある程度築けます。ただし、ETL専用タイプだけでは業務プロセスを自動化したり経営に関する意思決定をしたりすることはできないため、必要に応じてBIツールやDWH等、他の機能を持つシステムと連携させる必要があります。このような構築は専門の知識が必要です。
これまではオンプレミスでの利用が主流でしたが、近年はクラウドベースのETL専用サービスが増えてきています。
DWH・BI搭載タイプ
DWH・BI搭載タイプは、DWHおよびBIツールの機能と、ETL機能が一体化して提供されているタイプです。データ集約だけに留まらず、分析して可視化するところまでを単一ツールで完結できるため、データ運用や管理をシンプルに行えます。その反面、ETL専用タイプに比べて費用がかかることも考慮しておかなければなりません。
ETL搭載のEAIタイプ
ETL搭載のEAIタイプは、EAIツールにデータの抽出、変換、格納といったETLの機能がオプションや機能拡張として搭載されています。企業内のさまざまなデータのリアルタイム連携による業務スピードの向上といったEAIの強みに加え、複雑なデータを整形し、高品質のデータを大量に最適化でき、業務プロセス全体の効率化につながるため、活用の幅が広がります。
ただし、EAIの運用には連携ロジックやフローの設計といった専門的な知識が必要なこと、企業内のシステムに適合したツールを選定する必要がある点にも注意が必要です。
このようにETLとEAIの両方の観点が求められる場面では、両者の機能をあわせ持つ統合基盤を選択肢に入れることも有効です。その代表例のひとつが「webMethods」です。
webMethods が求められる背景や特徴、導入メリットについては、以下の記事で詳しく紹介しています。
・webMethodsとは?求められる背景や導入メリット、事例を紹介
「どのETLツールが自社に最適か」選定でお悩みではありませんか?
弊社では、貴社の状況に合わせてwebMethodsを用いた最適な解決策をご提案いたします。
まずはお気軽にご相談ください。
パブリッククラウドサービスのオプションタイプ
AWS、Google Cloud、Microsoft Azure等のパブリッククラウドサービスが提供するETLも存在します。他の機能をメインとしたクラウドサービスのオプションとして提供されるデータ統合サービスです。新たにETLツールのみを導入する必要がなく、クラウドベンダーが提供する他のサービス(データベースやストレージ等)との連携が容易で、社内で利用している他ツールとのシームレスな統合が可能です。多くの場合は従量課金制で、利用規模に応じて柔軟に予算調整が可能ですが、追加オプションにより予算が膨らむおそれがあります。また、クラウドベンダー側で急な仕様変更やアップデートがあった場合に、自社システムが影響を受けるおそれもあります。
国内製と海外製ETLツールの比較
ETLツールは国内製/海外製の違いによって、機能やコスト、サポート体制等の特徴が異なります。具体的な違いやメリット、デメリットを把握しておくことで、企業により適した製品を選べます。
国内製と海外製の違い
国内製のETLツールの大きな特徴は、日本ならではの商習慣や法律、業務要件、既存の国内製システムとの連携にきめ細かく対応している点です。一方、海外製のETLツールは、日本企業だけに向けて提供されているわけではないため、日本独自の商習慣、法律、言語等に対応していない場合があります。一方で最新の機能やグローバル基準の技術を早期に採用する傾向にあります。
国内製のメリット・デメリット
国内製は、日本の既存システムやデータ形式への互換性が高く、日本独自のルールや法律にも対応している点が特徴です。また、マニュアルやサポートが必要な際には、日本語による充実した支援を受けられる点も挙げられます。さらに、日本製のETLツールは日本市場向けに設計されており、予算を抑えて導入できることも珍しくありません。
反面、国内製は機能や技術の最新性が海外製に比べて劣るケースもあるため、グローバル基準のテクノロジーを導入したい場合は適していません。
海外製のメリット・デメリット
海外製のメリットは、先進的な技術を積極的に採用している点やグローバルな連携機能の豊富さ等が挙げられ、大規模なデータ処理における高パフォーマンス性が期待できます。そのため、最先端のETLツールを導入したい企業に適しています。
一方、日本の商習慣や法制度に対応していない場合があることや、日本語によるマニュアル、サポート体制が不十分な場合もあるので注意が必要です。最先端の機能でも、運用が難しい場合は余計なリソースが必要となり、結果として費用が増大するおそれもあります。
ETLツール選定時の比較項目
現在、さまざまなETLツールが展開されていますが、自社に合ったツールを選ぶためにも、それぞれの特徴を比較しておきましょう。ここでは、ETLツールを選ぶ際に確認したいポイントを解説します。
自社の課題・導入目的を満たすか
自社が抱える課題を解決できる機能があるかどうかを確認しましょう。ETLツールの導入によって「経営分析を迅速化したい」「データガバナンスを強化したい」等、最終的に実現したい目的を達成するための機能や性能が備わっているかを評価することが大事です。
連携できるシステムの数は豊富か
運用時に社内で使用している既存システムやサービス連携ができるかを確認しましょう。現在利用しているSaaS、ファイル、レガシーシステム等全てのデータソースと連携できるアダプタが用意されているかを確認します。また使用中のものに限らず、今後導入予定のシステムやサービスとの連携も視野に入れ、将来的な拡張性や新しい技術への対応力も評価しましょう。
自社システムのデータを処理できるか
ETLツールが処理できるデータ規模や処理速度が、自社のシステムのデータ量に見合っている必要があります。せっかく導入してもトランザクション数が多すぎて処理しきれない、バッチ処理時間が長すぎるといった状況に陥らないよう、必ず処理できる量や速度を評価します。
また、自社特有のデータ形式がある場合や、複雑なデータ構造、非定型データ等を扱っている場合は、それらを正しく変換できる機能があるかどうかを確認します。なお、データ品質のチェックやエラー時の回復機能を備えているツールであれば、より安心です。
誰でも使用できるか
ETLフローの運用にプログラミング知識が必要かも確認しましょう。将来を考慮し属人化を避けるために、開発者だけでなく、非IT部門でも容易に操作できるインターフェース(GUI)かどうか、ノーコード/ローコードで開発・運用できるかも評価の対象です。連携状況の監視やエラー対応を簡単に行えるように、操作性やマニュアルの充実度もチェックしたいところです。
学習コストが低いほど、導入後の利活用が促進されやすいため、製品によって提供されているトライアル期間等を利用して実際に操作してみると選びやすくなります。
サポート体制などは十分か
技術的な質問や操作性等について不明点が生じた場合、自社のニーズやスキルレベルに合ったサポート体制が用意されているか、導入時のコンサルティングサービスはあるのか等を確認しておくと安心です。マニュアルやFAQの資料、Webページ、開発者コミュニティ等、自己解決に役立つナレッジベースが充実しているかも評価しましょう。
また、予期せぬトラブルが発生した場合、障害発生時の対応時間や復旧プロセス等が整備されているかも大切な評価ポイントです。24時間、問い合わせに対応している等、迅速な対応が期待できる製品は緊急時にも強い味方です。
セキュリティに問題はないか
ETLツールでは、業務上の重要なデータを取り扱うため、セキュリティ保護が万全の製品を選びましょう。機密データを保護するためにデータ連携の際の暗号化、アクセス制御、認証機能等のセキュリティ機能が充実しているツールが求められます。
また、ツールベンダーがISO等の国際的なセキュリティ認証を取得しているか、データ保護規制に準じているか、データガバナンスに関する機能が搭載されているか等もセキュリティの強度を確認する上で大事なポイントです。加えて、監査ログの取得や権限管理等、内部統制に必要な機能が備わっているものは、運用時のセキュリティ面でも安心です。
導入にかかるコストは適正か
ETLツールは、導入コストと運用コストを考慮して無理なく使い続けられる製品を選ぶことも大事です。導入コストや運用コスト、保守やデータの実行回数に応じた従量課金等、全てのコストを合算して考える必要があります。自社の予算とツールの機能、性能、サポート体制等、提供する価値を比較し、費用対効果が適正かどうかを評価しましょう。
まとめ
ETLツールは、企業内に散在するデータを抽出・変換・統合し、分析や活用に適した形式へ整えるための重要な基盤です。しかし、製品ごとに機能や処理方式、サポート体制、コストなどが大きく異なるため、自社のデータ構造や運用体制、将来的な拡張性を踏まえて慎重に選定することが大切です。
また、企業内にSaaSや業務システムが増えていくほど、データは分散し、個別にETL処理やスクリプトを積み上げるだけでは全体構造が複雑化しやすくなります。どこかのタイミングでシステム全体を俯瞰し、データ連携の在り方を「部分最適」から「全体最適」へと見直す視点が欠かせません。
こうした背景を踏まえ、なぜシステムやデータ連携が複雑化していくのか、その本質やリスク、全体最適化に向けた考え方を整理した課題解決型ホワイトペーパーをご用意しています。ETLツールやデータ連携基盤の選定方針を検討する際のヒントとしてご活用いただける内容です。
API連携やETL、システム間データ連携に関する具体的なご相談がある場合は、以下よりお問い合わせください。
お気軽にご相談ください
お役立ち資料を無料で入手する