ホテルや旅館などの宿泊業界では、深刻な人手不足や運営コストの増大が大きな課題となっています。こうした状況を改善し、サービスの質や顧客満足度を向上させるために注目されているのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。
本記事では、ホテルや旅館などの宿泊業界でのDXの基本や導入メリット、さらに実際の成功事例までわかりやすく解説します。
ホテルなどの宿泊業界でのDXとは?
現在の宿泊業界は、従来のやり方だけでは人手不足や運営コストの増大といった課題を解決することが難しい状況にあり、こうした状況を受けて、多くのホテルや旅館がDXの導入に取り組み始めています。
まずは、DXの基本や宿泊業界におけるDXの重要性、具体的にどのような業務が改善できるのかを解説します。
DXとデジタル化の違い
一般的に「デジタル化」とは、紙の帳票を電子データに置き換えたり、手書きだった予約管理をシステム化したりといった業務の部分的な効率化を指します。
一方、「DX」は単なるシステムの導入や業務の自動化にとどまらず、サービスや業務全体を根本から見直し、ホテルの経営や顧客体験そのものを大きく向上させることを目的とします。
例として、ホテルのチェックインの完全無人化や多言語対応システムの導入によって、業務の流れ自体を変えることで、人手不足を根本から解決することなどが挙げられます。
ホテルでのDXが重要な理由
人手不足が続くホテル業界では、現場の業務負担を減らしながらサービス品質を守るには限界があります。
そのため、DXによって単純作業を自動化し、スタッフが接客などの本当に注力すべき業務に集中できる環境を整えることが重要です。
また、インバウンド需要や顧客ニーズの多様化に対応できる体制づくり、新たなサービス価値の創出といった点でも、DXは今やホテル業界にとって不可欠な取り組みとなっています。
DX化できる業務一例
ホテルなどの宿泊業界でDXの対象となる業務は、多岐にわたります。一例として、以下のような業務が挙げられます。
- 予約や在庫管理システムの導入によるフロント業務の効率化
- 自動精算機やセルフチェックイン端末による手続きの自動化
- 客室清掃やメンテナンスの進捗管理システム
- 顧客情報のデータベース化
- AIを活用した問い合わせ対応
- 売上や稼働率データの分析による運営改善
ホテルなどの宿泊業界がDXに取り組むメリット
ホテルなどの宿泊業界でDXが注目されるのは、単なる業務効率化のためだけでなく、現場の課題解決や将来に向けた競争力の強化につながるからです。
ここからは、ホテルなどの宿泊業界がDX化によって得られるおもなメリットを解説します。
人手不足の解消
DXの導入によって予約管理やフロント業務、清掃指示といった定型作業をシステム化・自動化することで、必要な人員を大幅に減らすことが可能です。
その結果、現場の人手不足の深刻化を防ぎ、限られた数のスタッフであっても質の高い接客や戦略的な経営企画など、本来注力すべき業務に振り分けられるようになります。
インバウンド需要への対応
訪日外国人の増加や多様な顧客ニーズへの対応も、DXによって大きく進化します。
多言語対応の予約システムやキャッシュレス決済、AIを活用した問い合わせ対応などを導入することで、言語や文化の壁を越えたスムーズなサービスを提供できるようになるでしょう。
顧客満足度の向上
DXのデータ活用により、顧客一人ひとりの好みや過去の利用履歴に合わせたきめ細やかなサービス提供が可能になります。
また、待ち時間の短縮やトラブル時の迅速な対応も実現できるため、全体として顧客満足度の向上も期待できるでしょう。
運営ノウハウの蓄積と活用
DXの推進によって日々の業務データや顧客情報を蓄積できるため、分析や活用のための基盤が整います。こうした情報を活用することで、現場の課題や顧客ニーズをより正確に把握でき、経営判断の質も向上します。
ホテル全体の運営力を持続的に強化できる点も、DXの大きなメリットのひとつです。
ホテルでのDX事例3選
実際にDXを導入し、課題解消やサービス向上に成功しているホテルは全国的に増えています。ここからは、最先端のテクノロジーやシステムを活用して人手不足や業務改善に成功した各社が公表している事例を3つ見ていきましょう。
相鉄ホテルマネジメント(ホテルサンルートプラザ新宿)
ホテルサンルートプラザ新宿では、人手不足や人件費高騰を背景に、業務の自動化と効率化を目指した取り組みを進めています。
2025年4月に運搬ロボット「KEENON W3」を導入し、エレベータや電話交換機と連携して、ロボットが客室までアメニティやルームサービスを届ける仕組みを実現しました。
この自動運搬システムにより従業員の負担が大幅に軽減され、限られた数のスタッフでも効率よく業務を回せるようになりました。
訪日外国人の増加に合わせて、こうした最新技術を活用した新しいサービスを提供することで、顧客満足度やホテルのブランド価値向上にもつながっています。
【参考】「PR TIMES:相鉄ホテルマネジメントとDFA Robotics、「ホテルサンルートプラザ新宿」において、運搬ロボット「W3」によるルームサービスの提供を開始」
株式会社ロイヤルホテル(リーガロイヤルホテル)
リーガロイヤルホテルでは、単なる業務効率化だけでなくホテルの本質的な価値を高めることを目指し、2023年12月にDX推進室を設立しました。AIやロボット技術、モバイルサービスなど最新技術の活用を進めています。
具体的には、会員向けの個別対応サービスの強化やAIを使った経営データの一元管理、顔認証や自動チェックイン・アウトの導入、現場のキャッシュレス化の推進などに取り組んでいます。
また、従業員へのデジタル教育やオンラインツールによる社内コミュニケーション強化も行い、人手不足や働き方改革にも対応しています。
【参考】「株式会社ロイヤルホテル:DXへの取り組み」
アパサービス株式会社(アパホテル)
アパホテルでは、業務効率化と宿泊客の利便性向上を目指して、業界に先駆けて独自のデジタルサービスを展開しています。代表的な取り組みが、アプリや公式サイトと連動した「トリプルワンシステム」機能です。
事前にオンライン決済を済ませておけば、ホテル到着時は専用機にQRコードをかざすだけでチェックインできます。フロントに並ぶ必要がなく、非接触でチェックインが完了するため、混雑緩和や感染症対策にも役立っています。
【参考】「アパサービス株式会社:アパトリプルワンシステムが本格スタート!」
ホテルでのDXを成功させるポイント
DXはシステムを導入するだけで自動的に成果が出るものではありません。それでは最後に、ホテルにおけるDX導入効果を最大化するためのポイントを解説します。
初期投資など一定のコストを用意しておく
DXを推進するためには、システムなどの導入費用だけでなく導入後のサポートや定期的な更新費用も必要です。
運用中に新たな課題が生じた場合でもスムーズに対応できるよう、前もって一定の予算を確保しておきましょう。
当社は設立から40年分のITノウハウを蓄積しており、ホテルDXにおすすめの「イントラマート」を含むツール導入に関する支援実績が豊富にあります。ホテルDXの導入やサポートでお困りの方は、ぜひ当社へご相談ください。
従業員への教育を徹底し協力を得る
新しいシステムや業務フローを導入する際は、従業員への丁寧な説明と教育が欠かせません。現場の不安や抵抗感を解消し、従業員全員が前向きに取り組める環境を作ることがDX成功の鍵となります。
顧客満足度を第一に考えて進める
ホテル業界において、どんなに先進的な仕組みを導入しても最終的に評価するのは顧客です。
システム導入によって顧客の手間が増えたりサービスの質が下がったりしないよう、導入後も利用状況や顧客の反応を確認し、必要に応じて調整していくことが大切です。
まとめ
宿泊業界が直面する人手不足や業務効率化、顧客満足度の向上といった課題の解決には、今やDXが欠かせません。
デジタル技術を活用して新たな価値を生み出している成功事例から学びながら、現場や顧客の視点を大切にしたDX推進に取り組むことで、よりよいホテル経営を目指していきましょう。