企業の業務を支えるITシステムの中でも、企業の根幹となる業務を統合的に管理する「基幹システム」はとくに重要な役割を果たします。
新たに基幹システムを導入したり刷新を検討したりする際には、どのような機能が必要なのか、どのような導入手順を踏むべきなのかを理解することが不可欠です。
本記事では、基幹システムの基本知識を押さえつつ、導入時の注意点や期待できるメリットについて詳しく解説します。
基幹システムとは?
基幹システムとは、企業の中核業務を支えるITシステムのことです。財務・会計管理、販売管理、生産管理、在庫管理など企業活動の根幹を担う業務をデジタル化し、効率的に運用するという役割があります。
基幹システムには決まった形があるわけではなく、業種や業態によって必要な機能が異なります。そのため、多種多様な業務内容から求める機能を選定し、自社に最適な基幹システムを構築することが重要です。
基幹システムの主な種類と特徴
基幹システムは企業の中核業務を支える重要なシステムであり、用途や目的に応じてさまざまな種類があります。財務管理や販売管理、生産管理などそれぞれの業務を効率化するためにも、まずは基幹システムの主な種類と特徴への理解を深めましょう。
財務・会計システム
基幹システムのひとつである「財務・会計システム」とは、企業が保有する資産や負債、収益、支出などの財務データを一元管理するためのシステムです。
主に以下の機能を備えています。
- 財務管理
- 会計処理
- 税務処理
財務・会計システムを導入することで手作業によるミスを減らせるため、経営判断の迅速化やコンプライアンスの強化が可能になるでしょう。
人事・給与システム
基幹システムのひとつである「人事・給与システム」とは、従業員情報の管理や給与計算の自動化を目的としたもので、企業の労務管理を効率化します。
主に以下の機能を備えています。
【人事システム】
- 従業員情報の管理
- 採用管理
- 人事評価
- 異動・配置管理
【給与システム】
- 給与計算の自動化
- 勤怠管理
- 税金、社会保険の計算
人事・給与システムを導入することで手作業の負担を軽減できるため、正確で効率的な労務管理が可能になるでしょう。
販売管理システム
基幹システムのひとつである「販売管理システム」とは、受注処理や請求管理、在庫連携などの業務を自動化し、販売プロセスを効率化するものです。実店舗とオンラインショップのどちらにも対応可能で、業務の負担を軽減できます。
主に以下の機能を備えています。
- 受注管理
- 伝票、請求書作成
- 出荷管理
- 在庫連携
- 売上分析
販売管理システムを導入することで、手作業による膨大な量のデータ入力を減らせるため、販売事業の効率化と業務正確性の向上を実現できるでしょう。
生産管理システム
基幹システムのひとつである「生産管理システム」とは、製品の生産状況をリアルタイムで監視・管理し、計画的な生産と品質管理を支援するシステムです。
販売目標やマーケットのニーズ予測のデータをもとに生産量を調整し、工場への指示を自動化するシステムが搭載されています。
主に以下の機能を備えています。
- 生産計画の最適化
- リアルタイムの進捗管理
- 品質管理
- データ共有、可視化
生産管理システムを導入することで、生産効率の向上や廃棄コストの削減、品質の安定化を実現できるでしょう。
物流管理システム
基幹システムのひとつである「物流管理システム」とは、注文処理から商品の発送、在庫管理までを一元的に管理し、物流業務の効率化を図るシステムです。販売管理システムと連携することで注文の受注から出荷、配送までの流れをスムーズに自動化できます。
主に以下の機能を備えています。
- 出荷処理の自動化
- 倉庫管理との連携
- 在庫管理の最適化
- 棚卸し業務の効率化
物流管理システムを導入することで、物流業務の効率化や運送コストの削減、配送ミスの防止などが実現できるでしょう。
購買・調達管理システム
基幹システムのひとつである「購買・調達管理システム」は、社内の備品やITサービスの調達から仕入れ管理、発注処理までを一元管理するシステムです。会計システムや販売管理システムと連携することで、より調達業務の効率化を実現できます。
主に以下の機能を備えています。
- 発注管理
- 仕入れ、調達の最適化
- 会計処理との連携
- 備品管理
購買・調達管理システムを導入することで、調達業務の透明化や無駄なコストの削減、業務の自動化などが可能になるでしょう。
顧客管理(CRM)システム
基幹システムのひとつである「顧客管理(CRM:Customer Relationship Management)システム」は、顧客情報を一元管理し、営業活動やマーケティングを支援するシステムです。顧客データを蓄積し活用することで、効果的なアプローチや長期的な関係構築が可能になります。
主に以下の機能を備えています。
- 顧客情報管理
- 営業支援
- コミュニケーション機能
- マーケティング活用
顧客管理(CRM)システムを導入することで、営業の効率化や顧客満足度の向上、マーケティング戦略の最適化などが可能になるでしょう。
経営情報・BIシステム
基幹システムのひとつである「経営情報・BI(Business Intelligence)システム」は、経営層や管理職向けに企業の業績や人事情報を可視化し、データに基づいた意思決定を支援するシステムです。
主に以下の機能を備えています。
- 業績管理
- 人事データの可視化
- レポート、ダッシュボード機能
- 意思決定支援
- 専用のコミュニケーションツール
経営情報・BIシステムを導入することで、経営戦略の精度向上や業務の効率化、データドリブンな意思決定が可能になるでしょう。
ワークフロー管理システム
基幹システムのひとつである「ワークフロー管理システム」は、業務プロセスを可視化し、進捗を管理するためのシステムです。
主に以下の機能を備えています。
- 業務フローの可視化
- 進捗管理
- 承認プロセスの自動化
- チーム間の情報共有
- 業務の属人化防止
ワークフロー管理システムを導入することで業務の透明性が向上し、無駄な作業を削減できるようになります。また、業務フローの一元管理により、業務プロセスの標準化や効率化も実現できるでしょう。
基幹システムを導入するメリット
基幹システムは、事前に導入の目的を明確にしなければ、企業の業務効率化や情報の一元管理などの十分な効果が得られません。
基幹システムの基本的な種類を理解したうえで、ここからは基幹システムを導入することで得られる主なメリットをご紹介します。基幹システムの特性への理解を深め、自社に適したものを選定しましょう。
業務を効率化できる
基幹システムを導入することで、従来紙ベースで行っていた業務をデジタル化できるため、手作業での処理を自動化できます。業務時間の短縮やコスト削減が可能となり、全体の生産性向上につながります。
また、業務プロセスをシステム化することでヒューマンエラーの発生を抑え、データの正確性を高めることも可能です。
業務の標準化を進められる
基幹システムを導入することで、すべての社員が統一された手順で業務を進めるようになります。システムの仕様に沿って作業を行う必要があるため、個人ごとの業務のムラを抑え、組織全体での業務の標準化が可能です。
属人的な業務を減らすことで、従業員間のスキルの差による品質のばらつきを防げるため、業務の安定性や生産性の向上にもつながります。
データの一元管理ができる
基幹システムは業務データを集約することで、企業全体で共有したり管理したりできる仕組みを提供します。これにより、個々の社員が独自にデータを管理する必要がなくなり、情報の分散や重複を防ぐことが可能です。
基幹システムは部署間でデータを統合管理できるため、サイロ化対策としても有効でしょう。また、業務の連携がスムーズになり、リアルタイムで正確な情報を活用できるのもメリットのひとつです。
コンプライアンスの強化につながる
基幹システムを導入すると業務プロセスが統一されるため、社員が独自の判断で作業を進める機会が減ります。また、業務の流れや作業履歴をシステム上で記録したり保管したりできるため、業務の透明性が向上し、不正の防止に効果的です。
もし仮に不正が発生した場合でも、記録をもとに迅速に原因を特定し適切な対策を行えるため、コンプライアンスの強化につながります。
顧客満足度の向上を目指せる
基幹システムを導入すると、部署間の連携が強化され情報共有が円滑になります。その結果、顧客からの問い合わせや要望に対して迅速かつ的確な対応が可能となり、サービス提供のスピードも向上します。
基幹システムの導入でこうしたよい変化が起こり、最終的に顧客満足度の向上とリピーターの獲得に貢献するでしょう。
基幹システムの導入ステップ
基幹システム導入の決定後は、スムーズな運用を実現するために適切な手順を踏むことが重要です。事前に導入の手順を明確にし、各ステップを無理なく進めることでトラブルや想定外のリスクを最小限に抑えられます。
ここからは、基幹システムの導入を成功させるための具体的なステップをご紹介します。
課題やゴールを明確にする
基幹システムの導入にあたって、まずは目的を明確にすることが不可欠です。現状の課題を解決するのか、事業の成長を加速させるのかによって、必要な機能の種類や優先順位が異なります。
初期準備として目的を整理することで、重視すべき機能や適正なコストを判断しやすくなり、より自社にとって効果的な基幹システムの選定が可能になります。
要件定義を行う
基幹システムを適切に導入するためには、業務で必要となるタスクや手順を整理し、それに適した機能や仕様を検討する「要件定義」を行いましょう。
システムは現場の社員が日常的に使用するものだからこそ、利用者の意見を取り入れながら要件を定めることが重要です。
また、要件定義の一環として現状の業務プロセスを見直すことは、単なるシステム導入にとどまらず、より効率的な運用方法を検討できるというメリットもあります。
システムを選定する
基幹システムはさまざまな企業が提供しており、それぞれに異なる特徴があります。メーカーごとに得意とする業種や企業規模が異なるため、自社の業務要件や運用体制に適したものを慎重に選ぶことが重要です。
構築・開発・導入する
どの基幹システムを導入するかを決定したら、メーカー担当者と綿密に打ち合わせを行い、設計を進めます。
その後、システムの構築や開発を実施し、動作テストを経て導入へと移行します。多くの場合、メーカーやベンダーが導入後のサポートも提供しているため、不安な点がある場合はこの段階で解消しておきましょう。
運用・保守を行う
導入後は、基幹システムが正常に稼働しているかを継続的に確認し、必要に応じてセキュリティの更新や機能の最適化を行います。
基幹システムの運用を開始してから改善点が見つかることも多いため、安定化と業務効率の向上を目的に、適宜見直しとカスタマイズを欠かさず行いましょう。
基幹システムを導入する際の注意点
事前に準備や適切な運用計画を設定しないまま基幹システムの導入を進めると、現場での混乱や業務の停滞を招く恐れがあります。スムーズな基幹システム導入を実現するためにも、事前に押さえておくべき注意点を確認しておきましょう。
無理なく計画的に進める
「基幹システムをすぐに導入したい」と思う気持ちがあるかもしれませんが、事前の準備を怠るとシステムの選定ミスや運用の負担増加につながる可能性があります。
とくに、自社の根幹業務の要件にあったシステムを見極めるためには十分な時間をかけることが大切です。基幹システムは、一度導入すると人的リソースやコストの面から簡単には変更できないため、長期的な視点をもって計画的に進めることが求められます。
機能に過不足がないか確認する
導入する基幹システムの機能が不足していると、業務の効率化が進みません。しかし、かえって不要な機能が多すぎると、システムが複雑化して使い勝手が悪くなるだけでなく、余計なコストも発生してしまいます。
過不足なく自社のニーズに最適な基幹システムを選ぶためには、事前準備が欠かせません。導入前に慎重な比較と検討を行いましょう。
セキュリティ対策を確認しておく
基幹システムには、企業の重要な情報がデータとして格納されるため、万全なセキュリティ対策が不可欠です。セキュリティが不十分だと、機密情報の漏えいや業務の停止といった重大なリスクにつながる可能性があります。
基幹システムの運用保守の体制を整え、定期的なセキュリティチェックを実施しましょう。また、サイバー攻撃や内部不正に備える対策として、社員のセキュリティ意識を高める教育を取り入れるのもおすすめです。
導入に不安があるならプロに相談する
基幹システムを初めて導入する場合は、業務フローの大幅な変更がともなうことが多いため、使い方や社員へのトレーニングにも時間を要することがあります。
こうした課題を対策しながら、基幹システムのスムーズな導入を実現するためには、プロに相談しながら進めるのもよいでしょう。
メーカーやベンダーの多くは導入支援やサポートサービスを提供しているため、基幹システムを選定する際は、サポート体制の充実度も重要なポイントとなります。
弊社は、設立から40年分のITノウハウを蓄積しており、数多くのSAP運用支援実績があります。SAPの障害対応や機能改善などでお困りの方は、ぜひ弊社のERPソリューションサービスをご利用ください。
信頼できるITパートナーに相談する
基幹システムを初めて導入する場合や、ITに関する専門知識が不足しているとお悩みの場合は、信頼できるITパートナーに相談するのが賢明です。
それぞれの基幹システムの機能や操作方法、自社に導入する際の適合性などをITパートナーから正確に学ぶことで、より適切な選択が可能になります。また、費用対効果のバランスを分析してもらうことで、自社にとって最適なシステムを導入できるでしょう。
まとめ
基幹システムは、企業の根幹業務をデジタル化し自動化するための便利なシステムです。業務の効率化やデータの一元管理、さらには顧客満足度の向上など、導入することで多くのメリットが期待できます。
ただし、導入には慎重な計画が必要です。自社の課題を明確にし、過不足のない適切なシステムを選定することで、スムーズな運用が実現できます。基幹システムを導入する際の注意点を押さえながら、無理のない形で進めることが成功の鍵となるでしょう。