社内のシステム間を安定的に連携させたいものの、個別開発にはコストがかかり運用の負担も増えてしまいます。こうした課題を背景に、EAIツールに関心を持つ企業が増えています。
この記事では、EAIツールの基本的な仕組みや必要とされる背景、ETL、EDIとの違い、主要な機能、導入によって得られるメリットを解説します。
EAIツールとは?

EAIツールは、企業内に点在するシステムやアプリケーションのデータや処理の流れを一元的に統合し、業務全体をつなぐ役割を担います。異なる形式の情報を相互にやり取りできるようにすることで、部門ごとに分断された業務プロセスのデータや処理をシームレスにつなげられます。
また、異なるアプリケーションを個別に接続する方式と比べて、共通の仕組みを介して連携を構築できるため、変更時の作業量を抑えやすく、運用負担の軽減にもつながります。
蓄積されている情報をリアルタイムに活用できる状態に整えることで、データを使った意思決定の迅速化にも貢献します。
EAIの概要
EAIは「Enterprise Application Integration」の略称で、企業内に点在するアプリケーションをつなぎ合わせ、情報の流れを一元化する仕組みです。異なるシステムを共通の基盤で結び付けることで、アプリケーションごとに孤立しがちなデータを円滑に扱えるようにします。
また、データの受け渡しにとどまらず、関連する業務フロー全体を統合できる点も特徴です。部門横断で進む処理を一連の流れとして実行します。リアルタイム連携を得意としており、販売管理や在庫管理等、即時性が求められる領域において効果を発揮します。
システム間の複雑な結び付きの調整役となるミドルウェアとして働き、個別接続の負担を軽減しながら柔軟なシステム構築を後押しします。
EAIツールが必要な背景
企業で利用するアプリケーションが増えるにつれて、個々のシステムを結ぶインターフェースが複雑化し、変更や保守に大きな作業負荷が発生します。個別に接続を追加する方式では全体像を把握しにくく、全社レベルでの連携管理も困難になります。
システムごとに保守管理が行われると、データが孤立しサイロ化が進みます。そのため、部門間で情報を共有する際の余計な管理工数が発生します。また、一方のシステムだけが更新されることで整合性が崩れ、業務スピードに影響するケースもあります。
さらに、システム間の橋渡しを人手で補おうとすると、データ転記や二重入力が発生しやすく、作業効率の低下や入力ミスを招くおそれがあります。こうした運用負荷の増大を抑えるためにも、人手に依存しない連携システムの整備が求められています。
EAIとETL・EDIとの違い

企業内のデータ活用を進めるうえでは、異なるデータ連携手法の特性を理解することが重要です。ここでは、EAIとあわせて語られることの多いETLやEDIとの違いを順に確認していきます。
ETLとの違い
ETLは「Extract(抽出)Transform(変換・加工)Load(書き出し)」の流れで大量データを一括処理し、データウェアハウスに集約するための仕組みです。
EAIがアプリケーション間のリアルタイム連携を前提としているのに対し、ETLはバッチ処理で複雑な変換を行う場面に適しており、用途がはっきり分かれています。
EAIが日常の業務フローを自動化し全体の処理をつなぐために活用される一方で、ETLは経営判断に必要な情報を整理する目的で導入されることが一般的です。
EDIとの違い
EDIは「Electronic Data Interchange」の名称のとおり、受発注や請求といった企業間取引のデータを電子的に交換する仕組みであり、規格が統一された形式で取引データを送受信します。
一方で、EAIは企業内部に存在する多様なアプリケーションやシステムをつなぐ基盤として機能し、企業間取引に限定されない点でEDIとは目的が異なります。
このように、EDIが定められた形式に従って取引データを送受信するのに対し、EAIはさまざまなデータ形式や連携方式に対応できる柔軟性を備えており、リアルタイムでのシステム連携にも活用できます。
EAIツールの主な機能
企業内の多様なシステムをつなぎ、データの流れを整理するには、EAIツールが備える複数の基本機能を理解することが欠かせません。
ここからは、EAIツールの主要な機能について解説します。
アダプタ機能
アダプタ機能は、EAIツールと外部システムをつなぐ窓口として働き、データベースやクラウドサービス、ファイル等の多様な接続先との通信を可能にします。
連携先ごとに異なる通信方式やデータ形式の差異を吸収し、EAI内部で扱いやすい状態にそろえることで、統一的な連携処理を実現します。
どの種類のアダプタに対応しているかはツールごとに大きく異なるため、接続可能なシステムの幅がそのまま導入後の柔軟性や汎用性に影響します。対応範囲が広いアダプタを備えたツールであれば、新たなサービス導入時にも追加の開発を最小限に抑えられます。
フォーマット変換機能
フォーマット変換機能は、連携対象のシステムごとに異なるデータ形式や構造、文字コードの差異を自動的に調整し、受け渡し先が解釈できる形式へ整えます。
この機能により、複雑なデータ構造を持つシステム間でも統一された形式へ変換できるため、手作業での加工や修正を行わなくても正確なデータ交換が可能です。
また、変換処理が自動化されることで属人化や入力ミスの回避にもつながり、安定した連携プロセスを維持しやすくなります。変換ルールを一元管理できるため、仕様変更時のメンテナンスも効率的に行えます。
フロープロセッサ(ルーティング)機能
フロープロセッサ機能はルーティング機能とも呼ばれ、各システム間を移動するデータの経路や順序を制御し、適切な宛先へ確実に届けるための中核的な仕組みです。
フォーマット変換後のデータをどのシステムへ送るかを自動で判定し、設定された条件に従って振り分けることで安定した連携フローを維持します。
視覚的な操作画面を備えたツールであればルーティングの設定が直感的に行えるため、運用担当者の負担を軽減しつつ複雑なデータフローでも柔軟に構築できます。運用状況に応じてルートを細かく調整できるため、業務要件の変化にも迅速に対応できます。
プロセス制御機能
プロセス制御機能は、データ連携処理が計画どおりに実行されているかを監視する機能です。システムに異常が発生した際には、通知や再実行などの対応を自動化することで安定した運用を支える役割を果たします。
この機能によって、複雑な連携フローを事前に設定したスケジュールどおりに実行したり、特定のイベントをトリガーとして処理を開始したりと、業務に合わせた柔軟な制御が可能です。
さらに複数のデータ流通工程をひとつの流れとして統合する仕組みとしても機能し、日常的な運用作業の負荷軽減と連携処理の可視化に寄与します。プロセス全体を統合的に管理できるため、処理状況の分析や改善ポイントの把握にもつながります。
EAIツールを導入するメリット
企業内で分断されたデータや業務フローを整理し、効率的な運用を実現することで多くのメリットが生まれます。ここからは、EAIツールの導入によって得られるメリットを具体的に確認していきます。
データ連携を容易に行える
EAIツールは、多様なシステムをつなぐアダプタとGUIを備えており、プログラミングをせず、あるいは最小限のコードで連携処理を構築できます。
連携ロジックを視覚的に設計できるため、開発工程を短縮しつつ作業の複雑さを抑えられ、システム統合に必要な期間を大幅に削減できます。
また、新規システムの導入や仕様変更が発生した場合でも、既存のフローを柔軟に修正、拡張できるため、運用の変化に迅速に対応しやすい点もメリットとして挙げられます。加えて、連携内容が可視化されることでチーム内での情報共有が容易になり、運用保守の効率向上にもつながります。
データ転記ミスなどの防止につながる
EAIツールを導入すると、手作業でのデータ転記作業を削減できるため、入力漏れや二重入力、誤入力といったヒューマンエラーの発生を抑えられます。
また、EAIによって統一されたルールに基づきデータ変換が行われることで、異なるシステム間で発生しがちな形式の違いや品質のばらつきを抑え、整合性の取れた情報を維持できます。
常に正確なデータが各システムへ同期されるため、業務プロセス全体の正確性や信頼性の向上にもつながります。加えて、入力作業の自動化により担当者の負担が軽減され、ミス発生のリスク自体を根本から低減できる点もメリットです。
データの利活用の促進につながる
企業内で分散していたデータがEAIによって一元的に集約されることで、必要なデータをほぼリアルタイムに扱える環境が整います。統合されたデータはBIツール等の分析システムで活用でき、データドリブンな経営判断や市場変化への迅速な対応ができるようになります。
また、部門をまたぐ情報共有が円滑になることで、組織全体にデータを活かした意思決定を行う文化が根づきやすくなります。さらに、過去データの蓄積と活用が進むことで、業務改善や意思決定の質向上等、将来に向けた高度な取り組みを加速させられます。
EAIツール導入時の注意点
EAIツールはシステム連携の中心として動作するため、障害が発生した場合には関連する複数のシステムへ影響が広がる点を理解しておく必要があります。
また、接続するシステムの数が多かったり連携フローが複雑だったりする場合は、初期設計や構築に高度な知識と相応の工数が求められます。要件定義が不十分なまま導入を進めると、運用開始後に想定外の修正や追加対応が発生しやすくなります。
安定した運用を維持するためには、連携構造の可視化や設定内容の管理等、導入後の体制整備にも配慮が必要です。
EAIツール選定時の比較ポイント
EAIツールを導入する際には、自社の運用体制に適した製品を選ぶために必要な条件をあらかじめ整理しておくことが大切です。
ここからは、EAIツール選定時に比較すべきポイントについて詳しく解説します。
連携できるサービスの種類
連携対象となるシステムの幅を事前に確認することは、EAIツールの適合性を判断するうえで欠かせません。オンプレミスの基幹系からクラウド型SaaS、データベース、さらにはレガシー環境まで、どの領域に対応したアダプタが揃っているかによって、将来的な拡張性も大きく変わります。
対応範囲が狭い場合は、追加開発や別ツールの導入が必要となり、結果として運用負荷や費用が膨らむおそれもあります。個別開発を最小限に抑えるためにも、利用予定のサービスと接続方式に適したアダプタの有無を丁寧に見極めましょう。
データ処理能力
企業がEAIツールを選定する際には、そのツールが処理できるデータ量や処理速度が自社の求める基準を満たしているかを確認することが大切です。
リアルタイム性が求められる場面や大量のトランザクションを扱う領域では、負荷に応じて安定して動作する性能を備えているかを慎重に見極める必要があります。ピーク時の処理遅延が業務に影響しないか、想定負荷に近い条件で事前に検証しておきます。大規模な連携基盤を構築する場合には、並列処理の可否や将来的な拡張に対応できるスケーラビリティが確保されているかが、運用の継続性を左右します。
オンプレミス・クラウド間の連携可否
企業がEAIツールを選定する際には、オンプレミス環境とクラウドサービスの双方を組み合わせたハイブリッド構成に対応できるかを見極めることが求められます。
既存の基幹システムを保持しつつ外部SaaSと連携する場合でも、ツールが両環境を橋渡しする仕組みを備えているかを確認する必要があります。
通信経路や認証方式の違いを意識せずに利用できる設計であるかも、運用負荷を抑える観点では見逃せない要素です。
将来的なクラウド移行を見据える場合には、クラウド基盤での実績や拡張性が確保されているかどうかが、長期的な運用の安定性を左右します。
なお、オンプレミスとクラウドをまたいだ連携基盤が求められるケースでは、「webMethods」のような統合プラットフォームを検討する方法もあります。詳しくは以下の記事で紹介しています。
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セキュリティや障害対応時のサポート力
EAIツールを利用する場合には、扱う情報の機密性を確保するために、暗号化やアクセス権の管理、認証等の保護機能がどの程度備わっているかを確認する必要があります。
また、連携処理で障害が発生した際に迅速な復旧を図るうえでは、原因を特定しやすい監視機能や詳細なログ取得可能かどうかがポイントです。障害発生時に関係システムへの影響範囲を把握しやすい仕組みが備わっていれば、業務停止のリスクを抑えるうえでも有効です。
導入後の運用を安定させるには、日本語での問い合わせ対応、サポート時間帯、ナレッジベース等、ベンダーの支援体制が十分であるかを事前に見極めておく必要があります。
操作性や使い勝手
操作性を確認する際には、連携フローの設計から運用までを視覚的に扱えるGUIが備わっており、プログラミングに不慣れな担当者でも直感的に操作できるかを意識する必要があります。
運用段階では各処理の状況を素早く把握する必要があるため、連携の実行履歴を一目で確認できるモニタリング機能が充実しているかを見極める必要があります。
また、設定変更や障害対応の際に手順を追いやすい設計となっていれば、属人化を防ぎ、安定した運用を維持できます。現場の担当者が日常的に扱うことを踏まえ、画面構成や操作手順が複雑になりすぎていないか、変更作業がスムーズに行える設計になっているかも評価すべきポイントです。
導入コスト
導入コストを比較する際には、初期費用だけでなくライセンスや保守費用、追加モジュールの料金等、運用を継続するための総額を正確に把握することが欠かせません。
また、小規模な範囲から開始できる料金体系が用意されているかを確認し、自社の成長にあわせて段階的に拡張できるかを見極めておくと、導入のハードルが下がります。
契約形態によっては利用期間やユーザー数に応じて費用が変動する場合もあるため、条件の違いをあらかじめ確認しておきましょう。長期的な投資効果を評価するためには、将来的な連携拡大に伴う費用変動を試算し、支払う費用と得られる効率化の度合いが見合うかを検討することが大切です。
まとめ
EAIツールは、企業内に点在するシステムやデータを統合し、連携処理を自動化することで業務効率と情報活用の精度を高める基盤として有効です。一方で、製品ごとに対応領域や機能、運用要件は大きく異なるため、自社の環境や連携の在り方を踏まえて慎重に選定することが重要です。
また、企業内にSaaSや業務システムが増えていくほど、個別に連携を積み上げるだけでは全体構造が複雑化しやすくなります。どこかのタイミングでシステム全体を俯瞰し、連携の在り方を「部分最適」から「全体最適」へと見直す必要があります。
こうした背景を踏まえ、なぜSaaSが増えるほど業務は複雑化していくのか、その本質やシステム乱立のリスク、全体最適化に向けた考え方を整理した課題解決型ホワイトペーパーをご用意しています。EAIツール選定やシステム連携の方向性を検討する際のヒントとしてご活用いただける内容です。
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