近年、人材補強や業務効率化のために情シス業務をアウトソーシングする企業が増えています。情シス業務をアウトソーシングすることには多数のメリットがありますが、一方で懸念点やデメリットもあります。
では、情シス業務のアウトソーシングを成功させるためには、どのようなことに気をつければよいのでしょうか?ポイントは、業務範囲の選定です。
今回の記事では、情シス業務をアウトソーシングすることのメリット・デメリット、そして成功のポイントなどについて詳しく解説していきます。人手不足によりひとり情シスが続いている企業も多く、アウトソーシングを検討するきっかけになれば幸いです。
情シス業務をITアウトソーシングするメリット
冒頭でもお伝えした通り、情シス業務をアウトソーシングするメリットは多数存在します。その中でも、メリットの大きい5つをご紹介します。
業務の効率化・安定化
アウトソーシングを利用することで、業務を効率的かつ安定的に運用することが可能です。アウトソーシング事業者によっては、24時間365日のサポート体制を整備しているところもあり、夜間や休日にシステムトラブルが発生しても、迅速な対応が可能です。
セキュリティ事故や災害が起こった場合でも、なるべく事業が停止することがないよう迅速な復旧とサポートが提供されることもメリットです。
コスト削減につながる
情シス業務はアウトソーシングした方が、結果として人件費や設備投資などのコスト削減につながる可能性が高いこともメリットのひとつです。社内で情シス部門を維持しようとすると、人材の採用や育成、システム開発・運用のための設備投資などに多額の費用がかかります。しかし、アウトソーシングすることで委託費用だけに集約することができます。
属人化を排除できる
社内業務の中には、長年たった一人だけが担当し続けている業務など、属人化している業務も存在するものです。担当者が突然退職してしまったり、体調を崩して突然長期の休みに入ってしまったりすると、その担当者が担っていた業務に誰も対応できずに業務がストップしてしまう可能性があります。これは、企業にとって大きなリスクです。
業務の一部をアウトソーシングをすることで、属人化を防ぎ企業のリスク回避にもつなげます。
コア業務へ集中できる
情シス業務をアウトソーシングすることの大きなメリットは、コア業務に集中できることです。
アウトソーシング事業者に業務を委託することで、システム開発や運用保守など定型的なタスクやノンコア業務に時間を割く必要がなくなります。空いた工数を利用して経営戦略の策定や新システム導入検討など、企業の成長に直結する、より重要な業務に時間を費やすことができます。
専門性の高いサービスを利用できる
アウトソーシング事業者は情シス部門の専門家です。セキュリティ対策やコンプライアンス対応、クラウドサービスの導入などに関わる最新の技術や知見を持っています。その知識を活かして、サーバーの構築やセキュリティ対策など、高度な専門知識が必要となる作業でも安心して任せられることもメリットのひとつです。
情シス業務をITアウトソーシングするデメリット
ここまで、情シス業務をアウトソーシングするメリットをお伝えしましたが、一方でデメリットも存在します。アウトソーシングを利用する際は、デメリットについても認識しておきましょう。
情報漏えいのリスク
アウトソーシングを利用する場合は、企業情報を開示する必要があったり、場合によっては機密情報へのアクセスが許可された権限を付与しなければならないため、自社の機密情報が外部に漏洩するリスクがあります。
情シス業務をアウトソーシング事業者へ委託する場合は、信頼できるパートナーとなり得るのかを十分に吟味するためにも、企業全体のセキュリティ意識について事前に確認しておきましょう。セキュリティに関する意識が高い企業であれば、ISO 27001やプライバシーマークを取得している可能性が高いです。
認識違いが起こるリスク
自社とアウトソーシング事業者との間で、業務への理解や品質基準に関する認識違いが生じることもあります。スタッフが社内に常駐しない限り、チャットや文章ベースのやり取りが中心となってしまうため、認識違いが起こる可能性があります。
このようなコミュニケーション不足による認識違いがなるべく起こらないようにするために、目標を設定する際や契約書を締結する際には、業務要件やコミュニケーション手段、オフラインの会議を定例化することなど、明確に定めておきましょう。
予定外にコストが増大するリスク
初期費用や運用費用などを鑑みると、場合によっては自社内で対応するよりも費用がかさむケースもあります。また、初期の見積もりには含まれていない追加の作業や緊急対応が発生することもあるため、想定外のコスト増大につながってしまうこともあります。
アウトソーシング事業者への委託を検討しているがコスト増大が懸念点だと思われる場合は、事前に業務範囲を明確に定義しておき、詳細な見積を提示いただきましょう。そのうえで、考えられる突発作業などに関してはどのように費用が増加するのかを明文化しておくことが良いでしょう。
ノウハウが蓄積されない
アウトソーシングした業務のノウハウが自社内に蓄積されにくくなるという点も、デメリットとされます。もしアウトソーシング事業者との契約を突如終了するとなった場合、いざ自社で運用を開始しようとしても、全く知見がなくうまく運用できないといった状態に陥ってしまう可能性があります。
このようなリスクを回避するため、契約時に全ての対応を文書化する依頼をしておきます。例えばヘルプデスク業務を委託した場合は、問い合わせ内容のひとつひとつを文書化し、ナレッジベースを構築するよう依頼しましょう。
契約外の作業は対応してもらえない
基本的にアウトソーシングは契約に基づいて業務が遂行されるので、緊急性の高いものや迅速な決定が必要なものに対しては「契約外」と判断され対応が遅くなってしまう事もあります。もし柔軟に対応してもらえたとしても、追加でコストがかかったり、追って契約書を更新する必要が出てきたりします。
アウトソーシング事業者との契約では、内容に柔軟性を持たせたり、事前に作業オプションの設定ができるようにしておくことがおすすめです。
アウトソーシング可能な情シスの業務とは
情シス業務の中で、アウトソーシング可能な業務はさまざま存在します。企業によっては、社内に情シスを設けずに全てをアウトソーシングしているところもあるでしょう。一部業務のアウトソーシングを検討する場合は、主に以下のような業務のアウトソーシングが可能です。
ヘルプデスク・問い合わせ対応
情シス業務のアウトソーシングの中でも非コア業務とされ、利用される頻度が高いのがヘルプデスクや問い合わせ対応のアウトソーシングです。基幹システムの使い方に関する問い合わせから高度なシステム関連の問い合わせまで、アウトソーシング事業者へ委託を行うと、迅速でより丁寧な対応が期待できます。
契約の内容によっては24時間365日のサポートをしてくれる場合や多言語対応が可能な場合もあり、社内満足度向上にも繋がります。
PC設定やIT資産管理
こちらもアウトソーシングの利用が非常に多い非コア業務のひとつです。情シス業務のタスクの中には、PCのセットアップ、ソフトウェアのインストールや更新、PCの保守・交換などの定型業務があります。定型業務の場合は、あらかじめマニュアルが決まっていることも多いため、簡単にアウトソーシングを利用できます。
また、IT資産管理では企業内の全IT機器の在庫管理、ライセンス管理、使用状況の追跡なども比較的簡単にアウトソーシング可能です。
ネットワーク、サーバー構築・運用
情シス業務の中でも、「ネットワーク」と「サーバー構築・運用」は比較的アウトソーシングしやすい分野です。
専門のアウトソーシング事業者は、最新の技術とセキュリティ基準を用いて、安定したネットワーク環境の構築が可能です。また、クラウドサービスの導入支援や運用も作業範囲に含まれることが多く、ネットワークやサーバーに関わることを広くお任せすることができます。
セキュリティ対策
脆弱性の評価、侵入テスト、セキュリティポリシーの策定、セキュリティ教育、インシデント対応など、包括的なセキュリティ業務もアウトソーシングが可能です。
不正アクセスやハッキングの手法は日々多様化しています。専門的な知見をもった企業に依頼したほうが、迅速に対応できる可能性が高いでしょう。また、セキュリティ体制に客観的な目線を持って作業してもらうことで、社内だけでは見落としがちな脅威が見つかる可能性も高まります。
情シスアウトソーシングでメリットを最大化できるポイント
先ほどご紹介したメリットに留まらず、情シスをアウトソーシングすることでメリットの最大化が期待できるポイントがあります。ここでは、3つご紹介します。
ひとり情シスには特に効果的
昨今の人手不足により、多くの企業では情シス業務を一人の担当者がカバーしている「ひとり情シス」と呼ばれる状況で運営されていることもしばしばあります。一人で情シス業務の全てをカバーすることはなかなか難しいのですが、一部の業務をアウトソーシングすることで、業務の対応範囲を広げることができます。
ひとり情シスは属人化や相談相手がいないことを課題と捉えられることも多く、アウトソーシングを利用することで、そのような課題を解決できることも大きなメリットです。
情シス担当者の負担分散につながる
情シス担当者はささいなトラブルから大規模なプロジェクトまで、多くの業務を担当しています。にもかかわらず、最低限の人員で運営されていることも多く、一人一人に負荷がかかっています。このような状態が続くと、精神衛生上も良くなく、離職に繋がってしまうケースも多いのです。
そのような場合は、定型業務やヘルプデスクなどをアウトソーシングすることで、一人一人の業務負担を分散させるこにつながります。深夜や土日祝日にも必要な作業についてもアウトソーシングを利用することで、ワークライフバランスの改善にも繋がります。
最新のIT事情や知見が入手可能
ITの世界は常に進化しており、最新の技術だけでなくセキュリティの脅威も日々変化しています。アウトソーシング事業者は、ITに関する最新のトレンドや技術を継続的に取り込んでいるため、その知見を利用できることは大きなメリットです。
社内システム関連やセキュリティ関連だけでなく、ヘルプデスクやPC管理のアウトソーシングでも、時代に即した最新の知見が提供されます。これまで以上に効率的で効果的な運用へと進化させることが可能になります。
情シスのITアウトソーシング先を選ぶ際のポイント
情シスのITアウトソーシング事業者の選定には、いくつか確認しておくべきポイントがあります。具体的にご紹介いたします。
過去の実績
アウトソーシング事業者のこれまでの実績は、必須の確認項目です。情シスと言っても幅が広く、アウトソーシング予定の業務の実績があるか、また、目指す目的を達成できるレベルのサービスを提供しているかを確認しておきましょう。
アウトソーシング先を選定する際は、HPなどで 過去のプロジェクトや顧客からの評判を参照して実際の事例を確認することも可能です。全ての事例が掲載されているわけではありませんので、気軽に問い合わせてみるのもひとつの手です。
サポート体制
作業の品質やサポートが充実しているかどうかも重要な指標です。レスポンスが迅速か、エスカレーションのフローがしっかり決まっているかについても確認しておきましょう。ヘルプデスクなどの問い合わせ業務の場合は、最低限の対応では終わらず、ユーザー満足度向上を意識した対応を行ってくれるかどうかも重要です。
SLA(サービスレベルアグリーメント)は注意深く検討し、サービスの品質を保証する条件を明確化させておきましょう。
コスト効率性
単純にコストが安い事業者を選ぶのではなく、提供されるサービスに対してコストを比較し、目指すべきパフォーマンスに叶うかどうかを確認しましょう。
隠れたコストがないか、将来的な拡張や変更が発生した際の追加コストはどのくらいになるかも理解しておく必要があります。最安値の提案が常に最善とは限らないため、費用対効果をしっかり考慮しておきましょう。
情シスのITアウトソーシングを成功させる方法
情シスのアウトソーシングは、IT業務において効率化とコスト削減を実現する助けとなります。しかし、アウトソーシングでの運用を成功させるためには、事前に準備すべき点があります。以下の点に留意しましょう。
社内体制の整備
アウトソーシングを効果的に運用するためには、社内体制を整備しておく必要があります。情シス内にアウトソーシング事業者と対応する担当者を設置しておきます。何か問題が起きたときには、すぐにエスカレーションが上がってくる体制を作ることで、トラブルにもスムーズに対応が可能です。
また、ナレッジベース構築のためにも、少なくとも1~2週間に1度はアウトソーシング事業者から現状報告を受け、作成いただく資料についても確認しておくとより安心です。
アウトソーシングする業務範囲の特定
情シス業務のアウトソーシングを利用するうえで、最も難しくて重要なポイントは、業務範囲の特定です。例えばPC設定のアウトソーシング、と一言で言っても、その中には数ある業務が含まれています。よくある例だと、入退社時のアカウント管理やすぐにPCが使えるようにするPC内の設定などがありますが、このPC内の設定をどこまでするか、何をインストールするか、などの細かいところまで事前に範囲特定しておく必要があります。
ヘルプデスクに関しても、一般的なITに関する問い合わせには対応するが、基幹システムや専用システムなどの専門知識が必要なシステムへの問い合わせ対応はどうするのかなど、線引きが重要になってきます。アウトソーシングする業務範囲は、認識齟齬がないように事前に細かく文書化し、関係者間で共有しておきましょう。
明確な目標設定
アウトソーシングを始める前に、何を達成したいのかという目的をはっきりさせておきましょう。目標を設定するときは、具体的な成果物やサービスレベル、どのくらいコスト削減させたいかなども明確に数値化しておく必要があります。
目標が明確であれば、適切なアウトソーシング先の選定や、期待値の合致にもつながります。
適切なパートナー選び
「情シスのITアウトソーシング先を選ぶ際のポイント」でも解説した通り、アウトソーシング事業者の選定には細心の注意を払いましょう。サービス品質、専門知識、経験、コスト効率性、セキュリティ対策など、様々な要素を比較検討することは必須事項です。
特に、アウトソーシング先の専門知識が自社のニーズと一致しているかを確認し、過去のプロジェクトや参考になる実績のチェックは怠らないようにしましょう。長期的な関係を築くため、企業の機密情報を守るためにも、信頼できるアウトソーシング事業者を見つけることがとても重要です。