レガシーシステムとSaaSが混在する環境下で、業務プロセスの最適化に課題を抱える企業は少なくありません。その解決策として注目されるのがiPaaSですが、導入に際しては適切な製品選定が不可欠です。そこでこの記事では、iPaaSの基本機能や導入メリットに加えて、製品を比較する際に押さえておくべき6つのポイントを解説します。自社に最適なiPaaSを選定する判断基準がわかり、最適な製品選定に役立ちます。
iPaaSとは
まずは、iPaaSについて正しく理解するために、iPaaSの概要や基本的な機能、ETLツールとの違いを押さえておきましょう。
概要
iPaaSとは異なるシステム間のデータ連携に特化した、クラウドサービスの統合プラットフォームです。直訳すると「統合基盤サービス」で、「Integration Platform as a Service」の略称です。企業内のオンプレミスシステムとクラウドサービス(SaaS)間のデータを同期したり、業務フローを連携したりしてシステムの連携を支援します。
iPaaSの詳細は、以下の記事をご覧ください。
・【2025年最新】iPaaSとは?基礎知識から導入手順まで徹底解説!
基本的な機能
iPaaSの基本的な機能は、SaaSデータ連携や業務自動化、ノーコード/ローコードでの連携の構築・設定です。
iPaaSを導入すれば、SaaS間のデータ連携はもちろん、オンプレミス環境のシステムからクラウドシステムへのデータ連携も容易です。複数のアプリケーションやサービスをまたいだ業務の流れ(ワークフロー)を自動化し、効率化することも可能です。よく利用する連携であればノーコード/ローコードで設定でき、プログラミングの専門知識がなくても直感的に構築できます。
iPaaSの機能は、以下の記事で詳しく解説しています。
・企業DXを加速する【iPaaSの機能】とは?選定・導入のポイントもご紹介
iPaaSとETLツールの違い
複数システムのデータの連携や統合が可能なツールには、ETLツールもあります。ETLとは「Extract Transform Load」の略称で、直訳すると「抽出」「変換・加工」「書き出し」です。
ETLツールは主に、データを収集して分析しやすい形式に整え、データウェアハウスに集約、統合するための仕組みです。ETLは大量データのバッチ処理に適しており、データの前処理や変換に強みがあります。
一方、iPaaSはマルチクラウド連携を前提としたリアルタイムのデータ連携や、業務フローの自動化までを主な目的としています。iPaaSは、複数のシステムをつなぐ架け橋ともいえるツールで、リアルタイムのデータ連携や複数システムを横断する業務フローの構築等が強みです。
・ETLツールとは?必要性やできること、導入メリット、比較ポイントについて解説
iPaaS導入のメリット
iPaaSの導入には、利用面、開発面でさまざまなメリットがあります。
iPaaSを利用する側のメリットは、システムの拡張やデータ連携により、部門間の情報共有や意思決定がスムーズにできることです。リアルタイムでデータを自動取得することで、業務の効率化や人的ミスの削減にもつながります。
開発面におけるメリットは、連携コネクタが豊富に用意されているため、新規システムの統合や開発にかかる工数を大幅に削減できることです。プログラミングによる複雑な開発が不要で、業務部門でもワークフローを迅速に作成できます。
iPaaSのメリットについてさらに詳しくは、以下の記事をご覧ください。
・iPaaSのメリットを徹底解説!デメリットや選定するポイントまでご紹介
iPaaSの比較ポイント6選
iPaaSの機能や拡張性、料金等はサービスにより異なるため、比較しながら自社の環境や要件に合うものを選びましょう。ここでは、iPaaS導入を成功させるために押さえておきたい主要な比較ポイントを6つ紹介します。
1.連携できるサービス数
まず、iPaaSの製品ごとに連携可能なSaaSやシステムの種類、数は異なるため、自社で利用中のサービスがすべて対応しているかどうか確認する必要があります。
特に、業界特有のアプリケーションやニッチなシステムとの連携を検討している場合は、そのコネクタの有無を確認しておくことが求められます。今後導入を予定しているサービスも含めて、将来的な拡張性を見越した連携サービスの充実度を評価しましょう。
2.連携・運用の容易さ
ノーコード/ローコードでの連携フロー作成に対応しているかどうかや、直感的に操作ができるGUIかどうかも確認しておきたいポイントです。
「ノーコードやローコードで簡単に操作可能」と謳う製品でも、実際にはIT部門でないと運用が難しいというケースも見られます。可能であれば実際に試してみて、業務部門の担当者でも簡単にワークフローの作成や修正ができるかどうかを見極めることが大切です。
3.システムのモニタリング機能
連携した複数システムを横断するモニタリング機能の充実度も確認しましょう。異なるシステムを連携させると、データ形式の不一致等が原因でエラーが発生することも珍しくありません。連携フローの実行状況やエラーの有無をリアルタイムで把握できる監視機能が搭載されていれば、安定した運用を継続できます。
エラー発生時の通知設定が詳細に行えるものや、実行ログを確認して障害原因を特定しやすいものを選ぶのがおすすめです。
4.機能の拡張性
今後増える可能性のある新しいSaaSやシステム連携に対応できる拡張性を持っているかどうかも、確認しておきたいポイントのひとつです。拡張性が高い製品なら、ビジネスの成長やニーズの変化を受けて、システムの変更やアプリケーション追加が生じたときにも、柔軟に対応できます。
例えば、カスタムコネクタの作成や、複雑なロジックや特殊な処理をプログラミングで追加できる機能、API連携やオンプレミス連携等、単なるクラウドサービス連携にとどまらず、さまざまな接続方式に対応できるかどうかも確認しておきましょう。
5.セキュリティ・ガバナンス機能
iPaaSは複数のシステムにアクセスするため、自社のセキュリティポリシーに適合する製品を選定することも大切です。
iPaaSを介して企業の機密データや顧客情報等がやり取りされるため、セキュリティ基準や認証方式が自社の要件を満たしていることを確認しておく必要があります。アクセス制御やデータ暗号化、監査ログの取得等、企業が求めるガバナンス機能が搭載されているかを評価して選定しましょう。データを保管するデータセンターの所在地やセキュリティ体制、脆弱性が発見された際の対応等も確認しておくと安心です。
6.価格体系
iPaaSの料金体系には、主に月額固定制と、接続数や実行回数、データ転送量等に応じて料金が変動する従量課金制があります。月額または年額の固定料金に、利用量ベースの従量課金が加算されるハイブリッド型プランも一般的で、利用規模によって総費用は大きく変動します。
iPaaSを選定する際は、自社の利用を想定して初期費用や月額費用を試算し、トータルコストをシミュレーションしましょう。無料トライアルが提供されている場合は、実際に利用しながら処理量を測定することで、想定される費用を把握できます。
スモールスタートを想定している場合も、長期運用を見据えて、将来的な利用の増加も考慮に入れつつ費用を比較することが大切です。API連携が無料かどうか、基本料金とは別に課金が発生するオプションがあるか等、追加費用の有無も確認しておきたいポイントです。
iPaaSとAPI連携どちらを選ぶべきか
iPaaSは多様なシステムを統合し、業務プロセス全体を最適化できるのに対し、API連携は個別のシステム同士を柔軟につなぐのに適しています。 どちらを選ぶべきかは、連携したいシステムの種類や規模、運用体制によって異なります。
近年は、単なるSaaS連携に留まらず、オンプレミス・マルチクラウド・API管理・イベント駆動連携まで含めて一元的に扱いたいというニーズが増え、より高度な統合基盤が求められています。
その代表的なiPaaSの一つが、IBMが提供する「webMethods」です。
webMethodsがどのような課題に適しているのか、特徴や導入メリットについては以下の記事で詳しく解説しています。
・webMethodsとは?求められる背景や導入メリット、事例を紹介
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iPaaSが向いているケース
iPaaSが向いているのは、導入しているSaaSが多く一元管理したい場合や、ノーコード/ローコードで業務の自動化を行いたい場合です。
導入しているSaaSが多く一元管理したい
営業、人事、会計等、部門ごとに利用しているSaaSが異なり、それぞれの連携や管理が煩雑になっている場合にはiPaaSが向いています。iPaaSをシステム連携のハブとすることで、スパゲティ状態になりがちな複雑なシステム連携を一元的に整理し、シンプルに管理できます。
新規SaaSの導入が頻繁にある場合でも、iPaaSを介することで連携にかかる時間や人手を大幅に削減でき、短期間かつ容易に既存システムと連携させることが可能です。また、データをiPaaSに集約することで、転記作業の削減や入力ミスの防止にもつながり、業務効率の向上が期待できます。
ノーコード・ローコードで業務の自動化を行いたい
プログラミング知識がない業務部門の担当者が自ら連携フローを作成して、手軽に業務自動化を進めたい場合もiPaaSの導入がおすすめです。
ドラッグ&ドロップで簡単に操作できるiPaaSなら、プログラミング知識や開発スキルを持たない担当者でも、現場のニーズに基づいて迅速にワークフローを作成できます。組織内に専任のエンジニアがいない、またはIT部門の人手が足りていない場合も、比較的容易に開発を進められます。IT部門に頼らず現場で課題を迅速に解決できれば、ビジネスの変化にいち早く対応することも可能です。
特に、複雑なデータ変換やロジックが不要な定型的な業務プロセスの自動化には、iPaaSが効果を発揮します。
・ローコードとノーコードの違いとは?メリット・デメリットを徹底解説!
API連携が向いているケース
API連携が向いているのは、レガシーシステムと外部システムを連携させたい場合や、既存のシステム環境が複雑で連携難易度が高い場合です。
レガシーシステムと外部システムを連携させたい
一般的には難しいレガシーシステムと外部システムの連携も、単発の連携や特定要件に合致する場合には、API連携が適しています。この方法であれば、レガシーシステム自体に大きな手を加えることなく、必要な機能だけを外部システムから利用できます。
既存のシステム環境が複雑で連携難易度が高い
連携が必要なシステムの技術的背景や仕様が特殊で、iPaaSの標準コネクタでは対応が困難な場合もAPI連携が向いています。自社のニーズに対応した柔軟性の高いAPI連携を活用すれば、独自の基準を満たした開発が可能になります。
リアルタイムかつ機密性の高いデータのやり取り等、セキュリティや処理速度について厳密な制御が必要な場合も、高度なカスタマイズが可能なAPI連携がおすすめです。
まとめ
iPaaSは、異なるシステムをつなぎ業務プロセスを効率化するための有効な基盤です。一方で、製品ごとに機能や対応範囲が大きく異なるため、自社の環境や将来的な拡張性を踏まえて慎重に選定することが重要です。
また、企業内にSaaSや業務システムが増えていくほど、個別に連携を積み上げるだけでは全体構造が複雑化しやすくなります。どこかのタイミングで、システム全体を俯瞰し、連携の在り方を「部分最適」から「全体最適」へと見直す必要があります。
こうした背景を踏まえ、なぜSaaSが増えるほど業務は複雑化していくのか、その本質やシステム乱立のリスク、全体最適化に向けた考え方を整理した課題解決型ホワイトペーパーをご用意しています。iPaaS選定やシステム連携の方向性を検討する際のヒントとしてご活用いただける内容です。
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