多くの企業がクラウド移行を進める中で「クラウドシフト」という選択肢が注目されています。
本記事では、クラウドシフトの概要やメリット・デメリット、クラウドリフトとの違いなどを詳しく解説します。クラウド環境の活用を本格的に進めたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
クラウドシフトとは?
クラウドシフトとは、クラウドの特性を最大限活用できるようにシステム全体を再設計して移行する手法です。
従来のオンプレミス環境や仮想マシンベースの運用から脱却し、クラウドネイティブなアーキテクチャを採用することで、多くのメリットが得られます。また、近年の企業におけるDX進展にともない、クラウドシフトの重要性が高まっています。
オンプレミス環境は物理サーバーの管理やリソースの制約があるため、新技術の導入やシステム変更に時間がかかりがちです。一方、クラウド設計を採用すれば、最新技術の活用や迅速なスケーリング、システムの自動化が可能になり、競争力のあるIT基盤を構築できるようになります。
そのため、多くの企業が単なる移行(クラウドリフト)ではなく、クラウドを活かしたシステム再構築を進めています。
クラウドシフトのメリット
クラウドシフトを選択する最大の理由は、長期的なビジネス価値の向上にあります。ここからは、クラウドシフトの代表的なメリットを4つご紹介します。
運用コストを削減できる
クラウドシフトにより、オンプレミス環境の維持費と比較してTCO(総所有コスト)の削減が可能です。
オンプレミス環境ではサーバーの購入や保守に多くのコストがかかりますが、クラウドを活用することで初期投資を抑え、運用負担を軽減できます。
さらに、クラウドは従量課金モデルを採用しているため、必要なリソースのみを使用することで無駄なコストを排除できるでしょう。
柔軟なスケーリングが可能になる
クラウド環境では必要に応じてリソースを動的に調整できるため、急なアクセス増にも柔軟に対応できます。
具体例として、ECサイトやSaaSなどで活用する際は、繁忙期に自動でリソースを拡張し不要時には縮小することで、コストとパフォーマンスの最適化が可能です。これにより、事業成長に応じたスムーズなリソース調整が実現します。
最新のセキュリティ対策や自動化機能を活用できる
基本的に、クラウドベンダーが最新のセキュリティ対策を継続的に更新することを標準機能として提供しています。
オンプレミスではセキュリティ更新や脆弱性対応を自社で管理する必要がありますが、クラウドシフトを行うことで、暗号化やゼロトラストセキュリティ、DDoS対策などを標準装備できます。
さらに、パッチ適用やバックアップの自動化をサポートしているクラウドベンダーもあるため、運用負担が大幅に軽減されるでしょう。
長期的なビジネス価値を生み出せる
クラウドリフトは短期間でのクラウド移行を重視していますが、クラウドシフトは計画的な業務全体の最適化を目的としています。
クラウドネイティブな設計を採用することで、業務効率の向上や開発スピードの加速が可能となり、企業のDX推進の基盤として機能します。結果として、クラウドシフトは長期的な競争力強化につながる戦略的なIT投資となるでしょう。
クラウドシフトのデメリット
クラウドシフトには多くのメリットがありますが、導入に際しては慎重な検討が必要です。ここからは、クラウドシフトを検討する際、とくに注意すべきポイントを4つご紹介します。
移行期間が長くなりがち
クラウドシフトは、クラウドの特性を最大限活かすためにシステムを再設計する必要があります。クラウドリフトとは異なり、クラウドネイティブな設計へ移行するため、どうしても開発やテストに時間を要します。
また、新しいクラウド環境に適応するための教育や業務フローの調整も必要になるため、移行スケジュールは無理のない設計にしなければなりません。
初期コストが高くなることがある
クラウドシフトでは、クラウド向けに最適化されたシステムを改めて構築するため、初期コストが増える傾向があります。
また、システムの構造を見直すうえで、関連ツールの新たな導入が必要になった際は、追加で初期開発費用がかかる可能性があります。さらに、クラウド環境特有の技術を習得するためには、社内技術者のトレーニングも必要になるでしょう。
クラウドネイティブな技術に関する知識が必要
クラウドシフトでは、従来のオンプレミス環境とは異なる技術が必要です。
例として、軽量な仮想環境でアプリケーションを動作させる「コンテナ技術」や、クラウド環境に適したシステム構成の「マイクロサービスアーキテクチャ」などがあげられます。
これらのクラウドネイティブな技術を理解し、適切に運用するためには、情報システム部のスキル向上が求められます。そのため、技術習得のリソースやコストの面で負担が発生する点も、移行時のハードルとなるでしょう。
クラウドシフトが適している企業とは?
クラウドシフトは、将来的なシステムの拡張やDXの推進を目指す企業に適した手法であるため、すべての企業に適しているわけではありません。
ここからは、クラウドシフトが適している企業の特徴を4つご紹介します。自社の状況と比較して、適しているかどうかを検討してみましょう。
システムの将来的な拡張性を考慮しクラウド技術を活用したい企業
クラウドシフトは、事業成長にあわせて柔軟にシステムを拡張したい企業に適しています。
従来のオンプレミス環境では、システムを拡張する際に新たなハードウェアの導入が必要でしたが、クラウド環境なら必要なリソースを即時に増減できるため、スピーディな事業展開が可能です。
業務効率化やDXの推進を進めている企業
クラウドシフトにより、最新のクラウド技術を活用した業務自動化やリアルタイムのデータ分析が可能になります。この結果、社内のDX推進がスムーズになるため、迅速な意思決定や新規事業の展開にもつながります。
また、最近注目されているAIや機械学習の導入も容易になるため、クラウドシフトはデータ活用の幅を広げたいと考えている企業に最適でしょう。
既存システムのメンテナンス負担を削減したい企業
オンプレミス環境では、ハードウェアの保守やセキュリティ対策を実施するために、自社内で多くの負担がかかります。
クラウドシフトにより、これらの業務をクラウドベンダーに任せることで情報システム部の負担を軽減し、企業はより戦略的な業務に集中できるようになります。
さらに、定期的なアップデートやバックアップも自動化できるため、運用の効率化も図れるでしょう。
クラウドのスケーラビリティを活用し事業成長に対応したい企業
事業拡大にともなってシステムの負荷が増減する場合、クラウドのスケーラビリティを活かすことで柔軟に対応できます。
クラウドシフトにより市場の変化へ迅速に適応できるようになるため、必要に応じてリソースを最適化することで、コストとパフォーマンスのバランスを維持しながら事業成長を実現できるでしょう。
クラウドシフトの導入ステップ
クラウドシフトは、単なるシステム移行だけではなく業務フローの見直しや新しい技術の導入が必要になるため、計画的に進めることが成功の鍵となります。
ここからは、クラウドシフトをスムーズに進めるための一般的な導入ステップをご紹介します。
現行システムの分析と課題の洗い出し
まずは現行のシステム構成や性能を確認し、移行における課題を特定しましょう。
システム全体のパフォーマンスを分析することで、処理の遅延が発生している箇所や、手作業が多く非効率な部分を洗い出します。そのうえで、クラウド移行によって改善が見込める領域を見極めましょう。
とくに、レガシーシステムの移行可否や他システムとの依存関係を整理することが、スムーズな移行のポイントとなります。
クラウド移行計画の策定
クラウド移行の目的や範囲を明確にしたうえで、コストやスケジュール、リスクを詳細に分析した段階的な移行計画を策定しましょう。
まずは低リスクな業務システムからクラウド移行し、そうした小さな成功事例をもとに本格的な移行へ進めるアプローチも有効です。
影響範囲を事前に評価し、業務に支障をきたさないように綿密な移行スケジュールを調整することが重要です。
クラウド環境の選定・構築
次に、要件定義に適したクラウド環境を選び、最適な構成を検討しましょう。コンテナやサーバーレス技術を活用することで、クラウドの特性を最大限に活かす設計が可能です。
また、セキュリティ対策や移行後の運用のしやすさも考慮し、安定した環境を事前に整備しましょう。
移行とテスト環境の構築
データ移行の前にバックアップを取得し、整合性を保ちながらクラウド環境へ移行します。
移行後は動作確認に加え、負荷テストやセキュリティテストを実施し、クラウド環境で安定稼働できることを確認しましょう。とくに、高負荷時のパフォーマンスを検証し、必要に応じて設定を最適化することが重要です。
運用開始と最適化
クラウド移行後は、パフォーマンス監視やコスト管理を行い、継続的に最適化を図りましょう。運用負荷を軽減するための自動化ツールの導入や新機能の活用を進めることで、クラウドのメリットを最大限に活かせます。
セキュリティ対策の強化などを継続的に実施し、課題が見つかればその都度最適化しましょう。安定した運用を維持するためには、継続した改善立案が大切です。
クラウドリフトとの違いとは?
クラウドリフトとクラウドシフトはどちらもオンプレミス環境からクラウドへ移行する手法ですが、目的やアプローチが異なります。それぞれの違いを明確に理解し、自社に適した移行方法を選びましょう。
クラウドリフトとは?
クラウドリフトは、既存のシステムを大きく変更せずに短期間でクラウド環境へ移行する方法です。アプリケーションの構造を維持しつつクラウドへ移行することで、導入の手間や初期コストを抑えやすいというメリットがあります。
一方で、コンテナやサーバーレスといったクラウドネイティブ技術を活用して最適化するクラウドシフトとは異なり、システムの仕組みはオンプレミスと変わりません。そのため、クラウドならではの拡張性や自動化のメリットを十分に活かせないケースもあります。
クラウドシフトとクラウドリフトの比較表
クラウドシフトとクラウドリフトは、移行スピードやコスト、運用方法などが異なります。
それぞれの違いを比較すると、以下のようになります。
項目 |
クラウドシフト |
クラウドリフト |
移行スピード |
再設計が必要で時間がかかる |
短期間で移行可能 |
コスト |
初期費用は高いが、長期的に見るとコストを抑えられる |
初期費用は比較的低いが、長期的に見るとコストが高くなる |
運用方法 |
クラウド最適化された運用が可能 |
既存のシステムを維持 |
まとめ
クラウドシフトは単なるクラウド移行ではなく、DX推進や将来的なビジネス成長を目的とした戦略的な取り組みです。移行には初期コストや時間がかかるものの、柔軟なシステム運用や業務効率の向上が期待できます。
クラウドシフトでクラウドのメリットを最大限活用し、長期的な競争力を強化しましょう。
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