ビジネスの意思決定に欠かせない”データ活用”、その土台を支えるのが「データモデリング」です。
膨大なデータを「使える情報」に変えるためには、まずその構造や関係性を正しく理解し、整理・設計する必要があります。顧客情報、受注履歴、商品データなど、バラバラに存在するデータをどのように紐づけ、ビジネスに活かしていくのか。それを可能にするのが、データモデリングという手法です。
この記事では、データモデリングの基本的な意味や目的から、主要なモデリング手法、図解の例、実務での進め方、さらには活用事例までをわかりやすく解説します。これからデータ活用を本格化させたい方や、システム設計に携わる情報システム部門の方にとって、必ず役立つ内容となっています。
【はじめに】データモデリングとは何か?
データモデリングとは、蓄積されたデータ資産の構造や関係を整理・図示し、ビジネスで活かすための方法です。まずはその定義と注目される背景を簡単に解説します。
データモデリングの定義
データモデリングとは、企業内に蓄積されたデータの構造や関係性を整理し、図やモデルで表現する設計手法です。
具体的には、顧客情報、購買履歴、商品データなど、バラバラに存在するデータがどのように関連しているかを明確にし、効率的なデータベースの設計や活用につなげていきます。
データモデリングが注目される背景
ここ数年でDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが加速し、データドリブン経営を実践する企業が増えています。企業が保有するデータ量は爆発的に増加し、その活用方法が競争力を左右する時代になりました。
しかし、ただデータを集めるだけでは価値は生まれません。データの”価値”を引き出すには「適切なモデル化」が不可欠なのです。体系的に整理されたデータは、分析しやすく意思決定のスピードも向上します。このような背景から、データモデリングの重要性がますます高まっています。
データモデリングの目的と重要性
データモデリングを行う目的は、単にデータベースを作ることだけではありません。ビジネス全体の効率化と、データ活用の最大化を実現するための基盤づくりになります。
なぜデータモデリングが必要なのか?
データモデリングが必要な理由は、バラバラに存在するデータを正しく整理し、ビジネスで活用できる形にするためです。
例えば、顧客情報、商品データ、売上実績などは、それぞれ異なるシステムで管理されていることが多く、これらの関連性が不明確な状態が続くと深刻な問題が発生します。同じ顧客の情報が複数のシステムで重複管理されたり、データの更新タイミングがずれて情報が一致しなくなったりします。このような状況を避け、データを確実にビジネス成果につなげるために、データモデリングは欠かせない取り組みなのです。
データ活用・分析に与える効果
データモデリングを適切に行うことで、データの可視化、活用スピード向上が実現します。たとえば小売業のPOSデータと顧客情報を連携させることで、効果的なレコメンドや顧客分析が可能となります。データの品質についても均一化され、信頼性の高い分析結果を導き出せるのも、大きなメリットです。
システム開発・運用の効率化にも貢献
データモデリングを行うことで、要件定義、設計、保守がスムーズになる効果もあります。開発チーム全体で共通のデータモデルを参照することで、認識の齟齬を防ぎ、開発期間の短縮にもつながります。
データモデリングの種類
データモデリングには、抽象度の異なる3つの種類があります。それぞれの特徴を理解し、目的に応じて使い分けを行います。
コンセプチュアルデータモデル(概念データモデル)
コンセプチュアルデータモデルは、ビジネスの流れを俯瞰するモデルです。技術的な詳細は含まず、業務で扱う主要なエンティティ※とその関係性を表現します。
ER図※などを用いて、「顧客が商品を購入する」「社員が部署に所属する」といった、ビジネス上の関係を視覚的に表現します。経営層や業務担当者との認識合わせに活用され、プロジェクトの初期段階で作成されることが多いモデルです。
※エンティティとは、データベースで管理する対象となる実体(顧客、商品、注文など)のことを指します。ER図については後述。
ロジカルデータモデル(論理データモデル)
ロジカルデータモデルは、実装に近い形での構造設計を行います。概念モデルをより詳細化し、属性の定義や正規化、主キーの設定などを行います。
このレベルでは、データの型や制約条件も明確にします。たとえば、「顧客ID」は数値型で必須項目、「メールアドレス」は文字列型で一意制約があるなど、具体的な仕様を決めていきます。
フィジカルデータモデル(物理データモデル)
フィジカルデータモデルは、実際のデータベース構造に最適化された設計です。使用するデータベース管理システムの特性を考慮し、パフォーマンスを最大化するための調整を行います。
インデックスの設定、パーティショニング、ストレージの配置など、物理的な実装に必要な要素をすべて含みます。このモデルは、データベースエンジニアが中心となって作成し、実際のシステム構築に直接使用されます。
データモデリングの基本手法と図解例
データモデリングを実践するうえで、押さえておくべき基本的な手法があります。ここでは、もっとも重要な点に絞って解説します。
ER図(エンティティ・リレーションシップ図)

3-1で登場しましたが、ER図とは、データモデリングで最もよく使われる図表現の手法です。
「顧客」「商品」「注文」といったデータのまとまり(エンティティ)を四角形で描き、それらがどのように関連しているかを線で結んで表現します。「ひとりの顧客が複数の注文を出す」「ひとつの注文には複数の商品が含まれる」といった関係性を一枚の図で表現できるため、システム全体のデータ構造を直感的に理解することができます。
正規化の基本

正規化とは、データの重複や不整合を防ぎ、データベースの一貫性と効率を高めるための設計手法です。主に「第1正規形」から「第3正規形」までの段階があり、目的に応じて段階的に適用します。
ただし、正規化を過度に進めると、テーブルが細分化されすぎて参照関係が複雑になり、かえってパフォーマンスが低下する可能性もあります。そのため、ビジネス要件や運用環境に応じて、パフォーマンスと保守性のバランスを取ることが重要です。
主キー・外部キーの考え方

主キーの役割は、テーブル内で各エンティティを一意に識別することです。たとえば「顧客ID」「注文ID」のようにユニークな属性を設定します。一方、外部キーは別のテーブルの主キーと関連づける役割を担い、エンティティ同士の関係を保ちます。データ構造の一貫性維持に欠かせない仕組みです。
たとえば、「注文」テーブルの「顧客ID」は、「顧客」テーブルの主キーを参照する外部キーとなります。
実務でのデータモデリングのステップ
実際にデータモデリングを進める際の、具体的なステップを見ていきましょう。各段階で押さえるべきポイントを理解することで、スムーズなプロジェクト進行が可能になります。
要件ヒアリングと業務整理
まず始めに、業務担当者へのヒアリングを通じて、現状の業務フローとデータの流れを把握します。どのようなデータを、誰が、いつ、どのように使用しているのか。これらを詳細に整理することが、適切なモデル設計の第一歩となります。
エンティティの抽出と定義
ヒアリング結果をもとに、必要なエンティティを抽出します。「顧客」「商品」「受注」など、業務で扱う主要なオブジェクトを洗い出し、それぞれの属性を定義していきます。同じエンティティなのに別部署で異なる呼称が使われていないか、重複や不整合がないかを確認します。この作業でデータモデルの土台が決定します。
関係性の整理と図式化(ER図作成)
洗い出したエンティティ同士の結びつきをER図にまとめます。たとえば「顧客」と「注文」「受注履歴」と「請求データ」などを線でつなぎ、主キーや外部キーがどのように設定されているかを可視化します。これにより、システム全体の構造が明確に見えてきます。
モデルのレビューと改善
作成したモデルを関係者で確認し、追加要件や矛盾がないかを洗い出します。ビジネスロジックや現場オペレーションと合致しない部分があれば修正します。テスト環境などで試しながら、最適な構造を探り、継続的に改善していきます。
データベースへの実装・運用
最終的なデータモデルが確定したら、実際のデータベースへの実装を行います。設計したテーブル構造やインデックスを、データベース上に構築するためのSQL文を作成し、システムに反映させます。
実装後は運用を開始しますが、実際にデータが蓄積され、ユーザーが利用する中で新たな課題が見つかることも少なくありません。そのため、パフォーマンスの監視やデータ量の増加に応じた最適化を継続的に行い、安定したシステム運用を維持していきます。
データモデリングに使える代表的ツール
効率的なデータモデリングを行うには、適切なツールの活用が欠かせません。目的や規模に応じて、最適なツールを選択しましょう。
無料・簡易ツール
初心者や小規模なプロジェクトには、以下の無料ツールがおすすめです。
- diagrams.net(旧Draw.io):Webブラウザ上で動作するオンライン作図ツールで、ER図の作成に必要な図形やテンプレートが充実しています。
- Lucidchart:リアルタイムでの共同編集機能に優れ、チームでの作業に適しています。
- dbdiagram.io:データベース設計に特化したツールで、シンプルなテキスト記法でER図を素早く作成できるのが特徴です。
上記ツールは導入コストがかからず、操作も直感的なため、データモデリングを始めたばかりの方でも気軽に利用できます。
本格的なモデリングツール
大規模なシステム開発では、以下のツールがおすすめです。
- ER/Studio:エンタープライズレベルでの大規模データベース設計に特化した高機能ツールで、複雑なデータモデルの管理と変更追跡に優れています。
- SAP PowerDesigner:既存のSAPシステムとの連携に強みを持つ、データモデリングからアプリケーション設計まで幅広くカバーする統合設計ツールです。
- Astah:日本企業が開発したツールで、日本語サポートが充実しており、国内企業での導入実績が豊富です。
- Enterprise Architect:データモデリング以外にもシステム設計全般をカバーする統合開発環境として活用できます。
全て有償のツールですが、大容量のデータベースや複雑な業務要件に対応するための高機能なツールで、変更管理やチームコラボレーションに優れています。システム管理者や情報システム部門が中心となって導入するケースが多いです。
クラウド型データプラットフォームに統合されたツール
最近では、クラウドデータプラットフォームと連携できるツールも注目されています。
Snowflake、BigQuery、Redshiftなどのクラウドデータウェアハウスには、それぞれ専用のモデリング機能やサードパーティ製の連携ツールが用意されています。このようなツールを活用することで、データモデルの設計から実装、運用まで一貫した環境で管理でき、クラウドならではのスケーラビリティやコスト効率を享受できます。
データモデリングの注意点と失敗パターン
どれほど優れたツールを使っても、業務の理解不足や継続的なメンテナンスがおろそかになると失敗します。ここではよくある落とし穴と注意ポイントをまとめます。
業務理解が浅いと正しいモデルにならない
最も多い失敗は、業務への理解不足です。業務フローや担当者へのヒアリングを怠ると、見当違いのデータ構造が出来上がり、後でシステムの大幅な修正を迫られるリスクがあります。十分な時間をかけて、業務の本質を理解することが大切です。
モデルが複雑化しすぎて属人化
データモデルを詳細に作り込みすぎると、設計者以外は理解できない複雑な構造になってしまい、属人化してしまいます。 このような状況を避けるには、本当に必要な要素に絞ったシンプルなモデルを作成し、チーム全体が理解・保守できる設計を心がけることが重要です。
データ更新や拡張に弱い設計になりがち
完成当初は問題なくても、ビジネスの変化に応じた修正を想定していないモデルは後々不都合が起きます。拡張性に配慮しない設計をすると、後から更新が困難になる場合があります。拡張性を意識したモデル設計を心がけましょう。
活用事例|データモデリングで業務改善・分析強化したケース
実際にデータモデリングを活用して成果を上げた事例を見ていきましょう。これらの事例から、自社での活用のヒントが得られるはずです。
小売業:POSデータ×顧客情報でレコメンド強化
小売店ではPOS端末から商品販売状況のデータを取得し、同時に顧客情報と関連付けるモデルを構築しました。ER図によって「顧客ID」と「購入履歴」を結びつけると、人気商品の動向や顧客属性ごとの購買パターンがわかるようになります。結果として、レコメンド商品の精度が高まり、クロスセルやアップセルの機会が拡大しました。
製造業:部品データと在庫を統合し、調達コストを削減
製造業のある企業では、部品マスタと在庫データ、調達履歴を統合したデータモデルを構築しました。これにより、部品ごとの使用頻度や在庫回転率が可視化され、最適な調達タイミングを予測できるようになりました。システム全体でデータ構造を統一したことで、調達コスト削減に成功。合わせて、欠品リスクも大幅に低減することができました。
人事部門:人材データベースと評価システムをつないで組織力を可視化
人事部門でも、データモデリングの効果は大きいです。ある企業では、人材データベースと評価システム、研修履歴を統合したモデルを構築しました。これにより、スキルマップの作成や、部署異動、人材配置の判断が根拠を持って行えるようになりました。企業にとって重要な、将来のリーダー候補の育成計画も、データに基づいて策定できるようになり、組織全体の競争力向上につながっています。
まとめ|データモデリングはすべての「データ活用」の基盤となる
データモデリングは、一見地味に見える工程ですが、あらゆるデータ活用の成功を左右する重要なプロセスです。どれほど高度な分析やAI技術を導入しても、土台のデータモデルが正しく構築されていなければ、継続的な成果を得るのは難しくなります。
データモデリングで設計したデータ構造を、実際のビジネスプロセスで活用するには、システム間の連携が不可欠です。本記事で紹介した知識を活かし、ぜひ自社のデータ活用を次のステージへと導いてください。適切なデータモデルの構築は、組織のデジタル変革を成功に導く第一歩となるはずです。
弊社が提供する「webMethods」は、異なるシステム間のデータ統合を実現する強力なプラットフォームです。データモデリングで整理されたデータを、webMethodsのAPIマネジメント機能やiPaaS(統合プラットフォーム)機能を活用することで、データ連携が可能になります。これにより、設計したデータモデルを最大限に活かし、真のデータドリブン経営を実現できます。
データモデリングの次のステップとして、ぜひwebMethodsの導入をご検討ください。