マスターデータ管理(MDM)とは、企業が保有する顧客・商品・取引先などの基礎的なデータを、正確かつ一貫した状態で組織的に維持する取り組みです。多くの企業ではシステムごとにデータが分散し、本来の価値を発揮できていないケースも少なくありません。
本記事では、MDMの基礎知識、マスターデータ管理が不十分な場合に生じる実務上の課題、4つの導入アプローチ、導入成功のポイント、そしてデータ統合基盤の必要性まで解説します。
マスターデータ管理(MDM)の基本
企業内で扱われるデータは年々増加しており、それに伴ってデータの整合性や品質を維持する必然性も高まっています。その中でも、顧客、自社商品、組織などのマスターデータの管理は、業務の正確性を支える土台です。しかし、多くの企業では部署ごとに異なるシステムがあることで、社内のデータが有効活用できていない現実があります。
この項目では、マスターデータ管理の基本的な考え方、必要性、対象範囲について整理します。
マスターデータ管理(MDM)の定義と対象範囲
マスターデータ管理(MDM:Master Data Management)とは、企業や団体がビジネスで利用するデータの、正確性、一貫性、そして最新の状態(鮮度)を維持するための、組織的な仕組みや取り組みを指します。「マスタ管理」と呼ばれることもあります。
マスターデータとは、顧客・商品・取引先・従業員などビジネスの基礎となる情報で、業務において繰り返し参照される基礎データです。更新が発生することはありますが、そのうえで常に正確な状態を保つための管理が求められます。
マスターデータと混同されやすい概念として「トランザクションデータ」があります。トランザクションデータは、日々の業務の中で発生する取引や活動の記録を指します。例えば、受注履歴・売上明細・入金記録などが代表例です。トランザクションデータは多くの場合、マスターデータを参照して生成されます。マスターデータが不正確であれば、業績把握や分析の基礎情報として活用されるトランザクションデータも、連鎖的に誤った内容となるリスクがあります。
このように、マスターデータの品質はトランザクションデータをはじめとする各システムで生成・蓄積されるデータ全体に波及します。マスターデータの品質を維持できなければ、日々の売上の記録から経営判断に用いる集計・分析結果まで、その正確性が損なわれかねません。
そのためには適切なツールの導入が不可欠ですが、ツール導入は管理のゴールではありません。データの入力ルール策定や、管理者の任命と教育、適切に運用していくための体制構築なども含めて、組織的に取り組む必要があります。
また、「マスターデータ管理」と混同されやすい概念に「データガバナンス」があります。データガバナンスは、安全性やコンプライアンスを含む全社的なデータ統制の方針・体制を指す広い概念です。一方マスターデータ管理は、その中でもマスターデータという特定領域の正確性・一貫性に焦点を当てた取り組みである点が異なります。
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企業で管理される代表的なマスターデータの種類
企業で管理されるマスターデータには、代表的なものとして以下が挙げられます。
- 顧客マスタ:顧客の名称・住所・連絡先などの基本情報に加え、与信限度額・支払い条件・取引履歴などを管理し、営業活動や請求処理などで参照されます。
- 商品マスタ:自社商品の品番(SKU)・価格・仕様・部品構成(BOM)などを管理し、在庫管理やマーケティングなどで参照されます。商品マスタの整備は業務効率や生産性の向上にも寄与します。
- 取引先マスタ:取引先の住所や連絡先などの基本情報に加え、契約条件・購買記録などを管理し、受注管理・請求・支払い処理などで参照されます。
- 組織マスタ:自社の部署コード・役職・社員・承認ルートなどを管理し、人事管理・承認ワークフロー・部門別の売上集計などで参照されます。
- 勘定科目マスタ:売上や経費など会計上の仕訳項目を管理し、経理処理や財務関連資料の作成時に参照されます。
多くの企業では、営業・経理・在庫管理など、業務領域ごとに最適化されたシステムが導入されている傾向にあります。CRM(顧客関係管理)・ERP(企業資源計画)・販売管理・生産管理などがそれぞれ個別に運用された結果、同一の顧客や商品にもかかわらず、異なるコード体系や表記で管理されているケースが少なくありません。このような管理の結果、システム間連携や業務に支障が出てしまうならば、「マスターデータ管理が不十分である」と言うことができます。
マスターデータ管理(MDM)が不十分な場合に起きる実務上の課題
システムが個別に運用されており、企業内でマスターデータの管理が不十分な場合、日々の業務から経営判断まで、さまざまな弊害が生じます。ここではその具体的な例を解説します。
同一の顧客や取引先がシステムごとに異なる表記で登録され集計ができない
業務領域ごとに別のシステムを運用している企業では、同一の取引先がシステムごとに異なる表記で登録されているケースが少なくありません。例えば、同一の取引先が、CRMでは「株式会社ABC」、ERPでは「(株)ABC」、販売管理システムでは「ABC」と登録されている状態です。表記が異なるレコードはシステム上それぞれ別の取引先として扱われるため、人間なら同じ取引先と判断できても、データとしては統合されません。
このような状態で全社的な売上集計を行うと、同一取引先への売上が分散して計上され「実際には大口の取引先であるにもかかわらず、複数の中小取引先と取引しているように見えてしまう」という問題が発生し得ます。結果として、実績が過小評価されかねません。
また、マーケティング活動においても、同一の取引先に対して重複してダイレクトメール(DM)が送付されるといったミスが発生するなど、企業としての信頼を損なう要因となります。
手動更新による反映漏れが現場の工数を圧迫している
マスターデータには、取引先の社名変更や住所変更、社内の人事異動など、日々さまざまな変更が発生します。こうした変更が生じるたびに、各システムのデータの更新や確認作業を行うと、現場の工数を大きく圧迫してしまいます。
また手動で複数のシステムへ反映する運用では、反映漏れやデータの不一致も発生しやすくなります。誤ったデータが入力されると、そのデータを参照する業務でミスが連鎖し、トラブル対応やデータの修正、再登録に多くの工数が割かれることになります。こうした業務は本来の業務に充てるべき時間を奪い、現場の生産性を低下させる要因となります。
不正確なデータが正確な集計や経営判断の妨げになっている
マスターデータの品質が低い状態では、集計結果の正確性が担保できず、経営判断の根拠としても活用しにくくなります。BI(Business Intelligence)ツール(ビジネス上のデータを収集、分析するソフトウェア)や分析基盤を導入しても、参照するデータが不正確であれば実態を正しく把握できません。近年は社内データを活用したAI分析の取り組みも広がっていますが、マスターデータの品質が担保されていなければ、AIが学習する前提そのものが崩れ、期待した投資対効果が得られないリスクがあります。
また、取引先の社名変更やM&Aなど外部要因によっても、マスターデータの鮮度は徐々に低下します。そのためマスターデータは一度整備して終わりではなく、誤り・重複・表記揺れを継続的に修正する「データクレンジング」の運用と仕組みが欠かせません。
マスターデータ管理(MDM)の4つの導入アプローチ
マスターデータ管理を適切に導入するには複数のアプローチがあるため、企業の状況や目的に応じて選択する必要があります。ここでは代表的な4つの導入アプローチ「レジストリ型」「集約型」「共存型」「トランザクション型」について解説します。
既存システムを変えずにデータの所在を把握できる「レジストリ型」
「レジストリ型」は、企業内に複数存在する業務システムを残しつつ、MDMツール側でインデックス(索引)を作成する方式です。
各業務システムにあるデータをそのまま活かすため、データ移行や書き換えが不要となり、MDM導入時の工数を抑えられます。短期間・低コストでMDMを導入できる点がメリットです。
その一方、各業務システムのデータを実際に統合するわけではないため、表記ゆれの解消やデータ品質の向上といった直接的な効果は期待できません。レジストリ型は「手間や予算を抑えてMDMを導入したい」ケースに適した方式で、データ品質の向上を本格的に進めたい場合は、目的に応じて他方式の検討や別手段の併用も視野に入れるとよいでしょう。
分散データを一箇所に統合し信頼性の高いマスタを構築できる「集約型」
「集約型」は、各業務システムから定期的にデータを収集し、ひとつのリポジトリ(データを一元管理する保管庫)に集約する方式です。集約時にデータのクレンジングや名寄せ(複数のシステムに存在する情報を統合する作業)を行い、信頼性の高い「ゴールデンレコード(正本)」を作成します。
クレンジングや名寄せを経ることで、マスターデータの品質を大きく向上できる点がメリットです。全社共通の正確なマスターデータをもとに集計や分析を行えるため、分析用のデータ基盤を構築する企業で採用されやすい方式です。
ただし、集約は定期的に行う運用となるため、変更が発生してからゴールデンレコードに反映されるまでにタイムラグが生じます。また、既存システムとの同期設計や初期のデータ移行に工数を要する点も踏まえる必要があります。
各システムとハブの双方でデータを保持できる「共存型」
「共存型」は、既存の各業務システムとMDMツールの両方でデータを保持し、互いに同期を図る方式です。MDMツールが各業務システムをつなぐハブとして機能し、双方向でマスターデータを最新の状態に保ちます。
各部門の既存業務プロセスを変えずに、段階的なデータ統合を進められる点がメリットです。大量のデータを扱う大企業や、複雑なシステム構成を持つ企業に適した方式といえます。
一方で、業務システムとMDMツールの両方にデータが存在するため、同期のタイミング設計や運用管理が複雑になります。同期設計や運用管理に十分なリソースを割ける企業に適しています。
マスターデータの登録から配信まで制御する「トランザクション型」
「トランザクション型」は、マスターデータの新規登録・変更・削除の全プロセスをMDMツールで行い、そこから各業務システムへ配信する方式です。すべての業務システムがMDMツールからデータを受け取る構造のため、4つのアプローチの内、最も高い水準で「データの一貫性と品質」を維持できます。
データの整合性という観点では理想的な方式ですが、業務プロセスに大きな変更を伴うため、導入には十分な人的リソースと、社内に定着させるまでの時間が必要です。計画段階から関係部門と合意形成を進め、十分な期間を確保して取り組むことが望ましいといえます。
マスターデータ管理(MDM)を成功に導くために押さえるべきポイント
MDMを適切に導入し、成果を上げるために押さえるべきポイントを紹介します。
対象範囲を絞り効果の出やすい領域からスモールスタートで着手する
全社のマスターデータを一気に統合しようとすると、プロジェクトが長期化し、必要なコストも膨らみがちです。投入する工数に見合う成果が得られず、途中で頓挫するリスクもあります。
そのため、まずは社内のマスターデータが「どのシステムにどのような状態で存在しているか」を把握し、MDM導入で解決したい課題と対象範囲を明確にすることから出発するのが効果的です。例えば、顧客マスタの重複排除から着手して営業効率を高めるなど、ビジネス上の効果が見えやすい領域に絞ってスモールスタートを切る進め方が現実的です。小さな成功事例を積み重ねることで、社内の理解と協力も得やすくなり、後続フェーズへの展開もスムーズになります。
ツール導入の前にデータの管理体制と運用ルールを整える
「ツールを導入すればデータ管理は自然に改善する」という認識のままMDMを進めると、期待した成果が得られないリスクが高まります。MDMツールも、目的や状況に合った導入・運用がなされなければ十分な効果を発揮できません。
成功の鍵は、「データの登録・変更・削除に関する管理体制」と「日々の運用ルールの適切な整備」です。この点を軽視すると、データの精度を高水準で維持できず、MDMツール導入の効果が出にくくなります。
運用基盤の整備には、データガバナンス(全社的なデータ統制の方針・体制)を強化し、全社的なデータ利用方針を定める取り組みが欠かせません。
近年、ビジネスの最重要課題となっているDX(デジタルトランスフォーメーション)の成否を分ける鍵のひとつは、データの管理・運用体制にあります。データを適切に管理、運用するには全社横断の統制を図る「データガバナンス」が不可欠です。 本[…]
マスターデータの同期と配信を支えるデータ統合基盤の必要性
MDMで整備したマスターデータを各システムで適切に活用するためには、データの同期と配信を担うプラットフォームが不可欠です。そのため、ERPやCRM、販売管理、生産管理といった複数のシステムに対して、常に最新のデータを届ける仕組みが求められます。
ここで注目すべきなのが「iPaaS(Integration Platform as a Service)」です。iPaaSは、異なるアプリケーション間のデータを繋ぎ、データの変換や受け渡しを一元管理するためのクラウドベースのサービスです。iPaaSをMDMの配信ハブとして活用することで、マスターデータが更新された瞬間に、連動するすべてのシステムへ自動でデータを同期させることが可能になります。
その中でも「IBM webMethods Hybrid Integration」は、多くのグローバル企業に採用されているiPaaSです。強力なデータ連携基盤であるwebMethodsは、MDMツールと個別の業務システムの橋渡し役を担い、データの形式が異なるシステム同士でも柔軟にデータの変換や連携を行うことができます。
また、ビジネスに必要な連携フローをノーコード、あるいはローコードで設計できるため、「少しの学習で現場の担当者でもメンテナンスができる」という操作性の高さが特徴です。複雑なコーディングなしにさまざまな連携ができるため、変化の激しいビジネス環境下でもスピーディーに連携ルートを拡張できます。このメリットは、MDMの継続的な運用において大きなアドバンテージです。
こういった要素をはじめとした「システム連携を始める際に知っておきたいポイント」を、下記の資料で詳しく説明しています。マスターデータを各システムで活用するための一助としてぜひお役立てください。
▼そのSaaS連携、“点”でつなぐだけで大丈夫?散らばるシステムを『組織の資産』に変える最初の一手
まとめ
マスターデータ管理(MDM)は、単なるIT運用上のテーマではなく、企業の競争力を左右する経営課題です。データの重複や不一致による工数ロスを削減し、正確なデータに基づく迅速な意思決定を実現することは、不確実な時代を生き抜くための重要な条件といえるでしょう。
MDM導入に当たっては、本記事で解説した4つのアプローチを参考に、自社のシステム構成や業務特性に合わせた方式を選択することが重要です。どのアプローチを選んだ場合でも、整備した高品質なマスターデータを各業務システムと適切に連携し、業務で継続的に活用できる環境を構築する必要があります。
webMethodsが選ばれる理由
記事内でもご紹介した「IBM webMethods Hybrid Integration」は、ERP・CRM・販売管理・生産管理など、複数システム間のマスターデータ連携が可能なiPaaSです。 主要なSaaSや基幹システムに対応する豊富な標準コネクタ、ローコードによる連携フロー設計、リアルタイム連携とバッチ処理の両対応により、「集約型」「共存型」「トランザクション型」など、さまざまなMDMアプローチにおけるマスターデータ・データ連携基盤として活用できます。
情報システム部門の負担を抑えつつ、整備したマスターデータを各業務で確実に活用できる状態へと変えられる点が、IBMのwebMethodsが選ばれている理由です。
MDM導入の具体的な選択肢や、iPaaS選定の判断材料を必要とされている方は、
ぜひ以下の実践ガイドをご活用ください。
▼そのSaaS連携、”点”でつなぐだけで大丈夫? 散らばるシステムを『組織の資産』に変える最初の一手
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