SAP社のERPソフトウェア「SAP ERP 6.0(ECC 6.0)」のサポートが2027年に終了することが決定し、企業の情報システム部門にとって大きな課題となっています。
これは「SAP 2027年問題」と呼ばれ、システムの移行や対策が避けられない状況です。本記事では、SAP2027年問題の背景や影響を解説し、具体的な対策方法をご紹介します。
「SAP 2027年問題」とは?
SAP ECC 6.0のサポート終了が迫る中、企業の情報システム部門はどのような対応をすべきか考えなければなりません。
まずは「SAP2027年問題」の概要を知り、2025年問題と何が違うのかを確認しましょう。また、企業のシステム運用にどのような影響を及ぼすのかについても解説します。
背景と概要
SAP 2027年問題とは、SAPが提供するERP製品「SAP ERP 6.0(ECC 6.0)」の標準サポートが2027年に終了することを指します。これにより、多くの企業がシステム移行を迫られています。
SAPは2015年に次世代ERP「SAP S/4HANA」を発表し、SAP ECC 6.0の段階的な終了を決定。当初、標準サポートは2025年までとされていましたが、移行の遅れを考慮し、2027年末まで延長されました。
しかし、2025年以降は原則として保守対象外となり、継続利用には高額なカスタムサポート費用が発生する可能性があります。企業は運用リスクを回避するためにも、早急に移行計画を検討しなければなりません。
SAP 2025年問題との違いは?
「SAP 2025年問題」は、当初SAP ECC 6.0の標準サポートが2025年で終了することを指しています。しかし、SAP社はシステム移行の遅れを考慮し、標準サポートの期限を2027年末まで延長しました。
つまり、2025年と2027年の問題は、期限が延長しただけで内容に変更はありません。ただし、この延長には条件があり、最新のEHP(Enhancement Package)を適用していない場合、サポート対象外となる可能性があります。
企業に与える影響
SAP 2027年問題は、多くの企業のシステム運用に大きな影響を及ぼします。最大の問題は、SAP ECC 6.0の標準サポート終了により、セキュリティパッチや法改正対応の提供が停止されることです。
これにより、システムの脆弱性が増し、業務の継続性が損なわれるリスクが高まります。また、SAP ECC 6.0を継続利用する場合、高額なカスタムサポート費用が発生し、システム維持コストが増大します。
移行を先延ばしにすると、将来的にERPの切り替えがさらに困難になる可能性があるため、早期の対応が求められます。
SAP 2027年問題への対策方法3つ
SAP ECC 6.0のサポート終了後、企業には大きく分けて3つの選択肢があります。それぞれの選択肢には、コストや運用負荷、将来のシステム拡張性といった点で異なるメリットとリスクがともないます。
ここからは、SAP2027年問題への各対策方法の特徴を解説します。企業が適切な判断をするためのポイントを押さえましょう。
最新版の「SAP S/4HANA」へ移行する
まず始めに、SAPが推奨する対策はSAP ECC 6.0から最新版の「SAP S/4HANA」への移行です。このシステム移行の最大のメリットは、最新技術を活用しながら長期的なシステム安定性を確保できる点にあります。
SAPは今後SAP ECC 6.0の機能改善を行わず、S/4HANAに開発リソースを集中させるため、最新の機能やサポートを継続的に受けるためには移行が必須です。
一方で、SAPのシステム移行には多大なコストと時間がかかります。単なるバージョンアップではなく、データモデルの変更や業務プロセスの見直しが求められるため、無理なく計画的に進めましょう。
他社ERP製品へ切り替える
SAP S/4HANA以外のERP製品への移行も、選択肢のひとつです。現在、多くのERPベンダーがクラウドベースのソリューションを提供しており、SAPに依存しないシステム構築が可能になっています。
他社ERP製品への移行には、コストの最適化や業務要件に合った柔軟な選択ができるといったメリットがあります。とくに、SAPのライセンス体系や運用コストが高いと感じている企業にとっては、有力な対策方法といえるでしょう。
現行のシステムを継続して利用する
SAP ECC 6.0を継続して利用するという選択肢もあります。SAPは2027年以降もカスタムサポートを提供予定であり、追加費用を支払うことで一定のサポートを受けられます。
この選択肢のメリットは、大規模なシステム変更を短期間で行う必要がないという点です。SAP S/4HANAや他社ERPへの移行には多大なコストと時間がかかるため、現行システムを延命することで負担を分散できます。
ただし、業務最適化のための機能拡張やSAPの最新技術の活用はできません。攻めの経営は難しくなるため、メリットとデメリットを理解して検討しましょう。
「SAP S/4HANA」の特徴
SAPが推奨するSAP S/4HANAへの移行は、単なるサポート終了によるシステム更新ではなく、業務プロセスの最適化やDXの推進につながる可能性があります。ここからは、SAP S/4HANAの主要な特徴や企業にとっての導入メリットについて解説していきます。
データ処理が高速
SAP S/4HANAの最大の特徴は、インメモリデータベース「SAP HANA」を採用している点です。従来のディスクベースのデータ処理とは異なり、データをメモリ上で処理するため、大量の検索や集計、分析が大幅に高速化されます。
操作性が向上
SAP S/4HANAでは従来のSAP GUIに代わり、新しいユーザーインターフェース「SAP Fiori」を採用しています。これにより直感的な操作が可能となり、ユーザーの利便性が向上しました。
SAP Fioriはモバイルデバイスでも快適に使用できるよう最適化されており、PCだけでなくタブレットやスマートフォンからも業務を遂行できます。
また、シンプルな画面設計により、SAP S/4HANAへ移行後のトレーニング期間の短縮や業務の標準化が容易になる点もメリットです。
クラウド対応
SAP S/4HANAは、オンプレミス版に加え、クラウド版やハイブリッド型の導入も可能です。クラウド環境のSAP S/4HANAを活用する場合は、自社環境を用意する必要がないため、とくにグローバル企業や急成長企業に適しています。
SAP 2027年問題への対応を検討する際のポイント
SAP 2027年問題への対応の選択肢としては、SAP S/4HANAへの移行や他社ERPへの切り替え、現行システムの継続利用などがありますが、それぞれにメリットとリスクがともないます。
自社の事業戦略やIT環境に適した移行計画を策定するために、企業が押さえるべきポイントを解説します。
業務の見直しと標準化を行う
SAP ECC 6.0の移行検討は、業務プロセスの見直しと標準化の機会でもあります。とくに、個別に最適化された業務が多い企業では、不要な手順を削減しSAPの標準機能にあわせることで、システムの複雑化を防げるようになるでしょう。
システム移行前に業務の棚卸しを行い、不要なカスタマイズを削減することが円滑な移行の鍵となります。
既存システムを整備する
システム移行をスムーズに進めるためには、既存システムの環境の適切な整理が欠かせません。古いデータの整理や不要なアドオンの削減を行うことで、システム移行時の負担を軽減できます。
長年運用してきたシステムには、不要なトランザクションデータや非効率な業務フローが蓄積されている可能性があります。システム移行前にデータクレンジングを実施し、移行後のパフォーマンスを最適化しましょう。
システム移行は計画的に進める
SAP S/4HANAや他社ERPへの移行には、コストやリソースの確保だけでなく移行後の運用保守など、多くの要素を慎重に検討する必要があります。スムーズな移行を実現するには、事前の計画が不可欠です。
移行プロジェクトの全体像を明確にし、各フェーズで必要な準備を整えることで、トラブルを最小限に抑えながら円滑に移行を進めましょう。
移行にかかる【コスト】を確保する
SAP S/4HANAや他社ERPへの移行には、ライセンス費用やインフラ整備費用、導入コンサルティング費用など多くのコストが発生します。移行開始前に必要な予算を正確に見積もり、確保しましょう。
移行にかかる【リソース】を確保する
SAPのシステム移行には、社内のIT担当者や業務部門の連携が欠かせません。通常業務と並行しながらシステム移行を進めるため、専任のプロジェクトチームを組成するのがおすすめです。
また、無理なく計画を進めるためには、外部パートナーの活用も検討するとよいでしょう。
移行後の【運用保守】方法を検討する
SAPのシステム移行後の運用をどのように管理するのかも重要です。内製化するのか、それとも外部ベンダーに保守を委託するのか、事前に方針を決めて適切な運用体制を構築しておきましょう。
プロに相談するのもおすすめ
SAP S/4HANAや他社ERPへの移行は、企業の業務プロセスやシステム環境を考慮しながら進める必要があるため、自社のみで対応するのは難しいでしょう。
とくに、システム移行計画の策定やデータ移行の最適化、アドオンプログラムの再設計など専門知識が求められる場面が多くあります。
そうした問題には、SAPの認定パートナーやITコンサルタントなどのプロに相談するのがおすすめです。システム移行のリスクを最小限に抑え、より確実な移行計画を立ててから実行しましょう。
弊社は、設立から40年分のITノウハウを蓄積しており、数多くのSAP運用支援実績があります。SAPの障害対応や機能改善などでお困りの方は、ぜひ弊社のERPソリューションサービスをご利用ください。
まとめ
「SAP2027年問題」といわれるSAP ERP 6.0(ECC 6.0)のサポート終了にともない、企業は早急に対応を検討する必要があります。
対応方法の選択肢はいくつかありますが、どの方法を選ぶにせよ事前の計画と準備が不可欠です。適切な移行戦略を立てることで業務の安定性を確保し、将来のIT基盤を強化しましょう。